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境界と王都への招待状

「それは私ではない。今そんなことはできないさ。」

両手をひらひらと振るアリアの姿をしたもの。

それを苦々しく思いながら紫の瞳を真っ直ぐ見つめる。

「ならば何故……。」

「知らないってば。ああ、あと今安定してないから入らない方が良い。石畳に入ったら帰れなくなる。」

神殿の境界で『意識』とセオドアは話していた。後ろにいるルークは洞窟にある岩に腰掛け意識のことをちらとも見ることもない。アリアの姿であっても中身が違えばここまで態度が変わるらしい。

「可能性を挙げるとするならシトリンの呪いか、はたまた他の世界からの介入か。あり得るとしたらこれくらいじゃないか?」

リリスの容姿が激変したことについて意識に聞きに来たのだが、こいつは何もしていないらしい。

大抵面倒ごとが起こるたびに、意識が一枚くらい噛んでいたから、今回リリスが変わった原因も意識だと思っていたのに、あてが外れた。

「どうすれば元に戻る?」

「おや? せっかく五柱揃ったというのに、わざわざその手で壊してしまうのかい? 愚かな王がいるのだね。」

「あの子の為なら愚王にもなるだろう。壊してしまったのは我々だ。違うか?」

「そうかもしれないね。ただ私は死にたくない。それだけさ。それに元に戻す方法なんて私は知らない。」

リリスは変わってしまった己の色彩を見て落ち込んでいた。こっそりと『言葉』の力で戻そうとしていたがそれでも戻らなかった。

それどころか、数日寝込んでしまっていた。

彼女は一日しか経っていないと勘違いしているから、周囲はあの妖魔も含めて何も言わなかった。

それだけ反発が強いのなら、それでも戻らないというのなら 諦めた方が良いのだろうか。


◇◆◇


たった数日前にもう会わないと思っていた相手がレイラの膝を枕にして寝転がっている。床に落としてやろうか。

長椅子に座って本を読んでいたレイラのもとに、隠し通路かなにかを使って侵入してきたジェフリーが現れた。彼はレイラの持っていた本を奪うと、そのままレイラの膝を枕に本を読み始めた。

その本は暇そうなレイラのためにウィラードが持ってきてくれたものなのだが。丁度レイラ好みの本だったというのに。殴りたい。

「てなわけで、お前俺に付いて来い。」

「嫌だわ。なんで貴人の集まるところに私なんかが行かなくてはいけないの? 私貴族とか大嫌いなの。もっと身分のある女性を誘えば良いのではなくて?」

数ヵ月後にある舞踏会にレイラを誘いに来たようだが、生憎レイラは踊れない、そして貴族ではなく商家の娘だ。ジェフリーと共にいたら針の筵だろう。

「他の女は煩わしいんだよ。その分お前は俺に媚びたりしないだろ? いちいち引っ付かれると鬱陶しくてかなわん。」

「可憐な女の子に引っ付いてもらえるなんて桃色の楽園でしょう。余所をあたって頂戴。私はここから出るつもりはないもの。」

こんな銀髪に金目という『私は王族です』という看板を掲げて歩くなんて真似がレイラにはできない。

色々な事の目処が付くまでレイラは客室から出たくない。

「顔が良くて護衛もこなせる女なんて滅多にいねぇよ。そんなに色が気になるならこれを貸してやる。」

ジェフリーがおもむろに取り出した指輪を指に嵌められる。レイラの指にはぶかぶかだったそれは、気付くとぴったりとレイラの指に嵌まっていた。

この指輪には見覚えがある。確かジェフリーが変装していた時に使っていた魔法道具かなにかだった。

ということは、レイラの髪色は変わっているのだろうか。自分の髪を摘まんで見てみるが銀色のままだ。

「貴方から見て変わっているかしら?」

「ああ、黒くなってる。その色も似合うな。」

「そう。」

ついでのように付け加えられた言葉を無視して窓に映る自分の姿を見る。そして確認のために長椅子の『記録』を視た。

どうやら本人には視覚できないもののようだ。

なにをみて確認しても銀色のまま変わらない。

「そうだな……。俺の頼みを聞いてくれるなら、フィンドレイの長男も招待してやるが。どうする?」

ジェフリーの交換条件にぴくり、と身体が反応した。

まだシリルは実家に帰るつもりはないようだったが、王子直々に招待したとなったら応えないわけにはいかない。

必ずシリルはその集まりに来るだろう。

しかも、たまにしか見られないシリルの正装が見られる。思考がおかしな方向へ泳ぎはじめたレイラを満足そうに見つめるジェフリーにはっとして頭を振る。

「そんな……そんなことしたら駄目。」

抗い難い誘惑ではあるが、ほどほどに仕事に情熱を持っているシリルを王都へ呼びつけるのはいけないことだ。

「なんだ。恋しくないのか?」

「恋しいし会いたいに決まっているわ。」

どうしてアメトリンとトリフェーンはこんなに遠いのだろう。帰ろうにも『言葉』の力がどこまで通じるか分からないから身動きがとれない。

つい先日も髪色と瞳の色を戻そうと力を使って気絶した後、目が覚めると色は戻らない、四日後に一週間眠っていたことに気付く、という問題が起こった。

理の力である『言葉』が月の力に負けているのだろうか。

「ただ周りに俺と深い仲だと勘違いさせてくれたら良いだけだ。簡単だろ?」

「シリルに勘違いされたらどうしてくれるの?」

「これ幸いとお前を妃に据える。」

「お帰り願えるかしら。」

勢いよくジェフリーの身体を転がり落とす。

仰向けに倒れているジェフリーを上から見下ろしていると、少し気分が良くなった。レイラの脳みそも単純に出来ている。

「痛ぇな。冗談半分だ。本気が半分。」

「貴方、私に興味をなくしたのではなかったの?」

「世界の調整のために必要としていただけだ。道具としてのお前に価値がなくなれば人としての魅力が見えてきたってわけ。まあ、俺に靡かないんなら早く教えてくれ。」

無駄な時間を使いたくないと言うジェフリーに呆れてしまう。この男はその時その時の気分で生きているのだろうか。

「それで、姫はどうしたい?」

「そうね。しがない商家の娘は……。」

少し胸は痛むが心は自分の欲望に傾いてしまった。


◇◆◇


レイラのいない生活に慣れたころ、シリルの元に上質な素材で出来た封筒が届いた。国民皆が知っている紋に溜め息を吐きたくなる。

「どうして俺なんだ……。」

まだ父親である侯爵はぴんぴんしているのだが。

封をといて招待状があるのを確認して、一緒に入っていた手紙を読む。

『シリル・フィンドレイへ

来なかったら君の大切なものをいただこうと思っている。

追伸 次に会うのは僕の結婚式かな? それとも葬式かな?

ジェフリー・アーネスト・シトリンより』

ふざけている。シリルの大切なものは確実にレイラだろう。追伸に結婚式か葬式かと書いてあるから。

シリルとしてはジェフリーがレイラに手を出した場合は葬式になる可能性が最も高いと思う。結婚式は一番ありえない。

今はくそ忙しいわけでもないが、どうするべきだろう。

「一月くらい休みをもらうか。……もらえるかな。」

シリルは重い足取りで理事長室へ向かった。

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