序章
私はモノから人の秘密を知ってしまう。
そして私の言葉が意味を持つことに気付いていた。
だからあの嵐の夜に男達が押し入って来たとき「出ていけ」と言えばよかったのだ。そうすれば、家政婦のカーラが死ぬことも、兄が怪我を負うこともなかった。
そして私が男達をバラバラにすることもなかったのだ。
真っ赤に染まったカーペット、人の残骸。泣きじゃくる兄、動かないカーラ。 その光景が今でも鮮やかに思い起こせる。
私がもっと大きくて強ければなんとかなったのだろうか? それとも最初から神秘の力に頼れば良かったのか?
未だに応えはない。
それからはとりあえず、父に剣術の師をつけてもらい必死で腕を磨いた。
そしてようやく兄を倒せるようになった頃、祖母の知り合いが学院長をしている学院に入学しないかという誘いがきた。
その学院は優秀な騎士や兵士を大勢輩出している学院であった。それに加え、幼い頃に助けてもらった警官の卒業校でもあったため、素直にその話を受けることにした。
明日には学院に立たなければいけない。しかし兄は毎日行くな行くなと泣きついてくる。そして今日も私のベッドに潜り込んでいる。兄もいい年だから私にばかり構っていないで好い人をみつけてほしい。
兄は昔からいつも私を守ってくれた。あの日も私を守ろうとしてくれた。だから幸せになってほしい。
私はモノから人の秘密を知ってしまう。
流れる血は神の血だ。すべてを見通す。
私は私の言葉が意味を持つことを知っている。
紫水晶の瞳は祖父と私しか持たない。そして言葉を使えるのも二人だけ。この瞳は神秘の象徴だ。
それと同時に普通とは違うと言われているようで私はこの瞳があまり好きではない。
◇◆◇
シトリア王国。その成り立ちは千五百年前にまで遡る。
その頃のシトリアは人が住むのが困難なほど荒れていた。土地は乾き、水は枯れかけ、人々は僅かな食料でなんとか食いつないでいた。
だがその年はいつにも増して酷く、飢えでその土地の半数が死に、残った人々は僅かな食料を奪い合い殺しあった。
そんな状況を見かねて天から一人の女神が舞い降りた。
女神の名はシトリン、シトリンは大地に恵みをもたらし、人々は女神を崇めた。
そんな中、シトリンはある人間の男と恋におちた。だがいつかは天に帰らなければならなかった。
シトリンは月の女神であった。月が消えれば人の心に魔が棲みやすくなり、また陰陽の均衡が崩れると世界が歪んでしまう。
だが女神は悩んだ末に神籍を破棄し、他の神に月の守りを譲った。そして人として男と生きる事にした。
それでも神力は消えず僅かに残った。シトリンはその力を人々のために使い続け、それから百年後に子や孫に見守られながら息を引き取った。
男はその地を治める長の息子であった。そのため現シトリア王家には女神シトリンの血が流れている。 民は王族のことを神の一族と呼んでいる。神の一族は鳥や動物と話すことができ、その力をもって国の危機を救ったという話まであるが、あくまでお伽噺として伝わっている。