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《口裂け女》3

現実世界に戻った俺は、ひとまずシャッテンの名を呼んだ。

「おーい、シャッテン。いるか?」

認知できない僕に、無謀にも語りかけようとするが、反応が皆無である。

切れかかった街灯が照らす視界の中、数歩歩いた所で、何かに躓き転びそうになった。

「おっと、危ない危な───」

俺は、躓きの原因は石ころかと思い、視点を落として真下を見た所、驚きの光景が広がっていた。

「なんだ……何があった……?」

視界には、バランスボールくらいの球体が地面に激突して出来たようなクレーターが有った。

それも、一つではなく、公園全域に広がって無数の穴が開いていのだ。

埋蔵金が埋まっているとしって駆けつけたコレクターがずさんな跡を残して手ぶらで帰ってしまったのだろうか。いや、大規模開発でつくられたニュータウンに埋蔵金などが有ったら、事前調査で発掘されている。

とても現実とは思えない光景を目の当たりにして、俺は言葉を失った。

この惨状は、言い換えれば、あちこちで爆発が起きた為に、地面が抉れてしまったという表現が適当だ。それだけ、有り様が現実味を逸脱している。

ただ、削られているのは地面だけではない。

滑り台は粉々に散り、ジャングルジムの骨組みは跡形もなくまさしく骨の山積み状態で、損傷があるも、かろうじて斜めに立っているブランコの支柱は、軽く押せば、崩れ落ちてしまう程、風前の灯火となっていた。

現場が、全部を物語っている。


ふと。

ただ、草むらへと目を向けた。

草むらに続く道にも、クレーターが何個も存在していて、一つの道が完成している。

クレーターの道の横にずれ、俺の足は半ば吸い寄せられるかの如く、ゆっくりと、草を踏み倒しながら奥へ進んでいく。

「…………ケヤキの木、か」

辺り生い茂る雑草や、木とは別格の木が一本。その木はケヤキの木で、どうやら、俺は根元へと導かれていたようだ。

遊具があるエリアは規模が小さいが、小エリアを取り囲むように沢山の木がそびえ立っている。

ニュータウン開発の際に、元々この土地に住んでいた住民達が、幼少時代に植えた記念樹や、住民達の成長を見守っていたケヤキの木の伐採に反対していた為、景観を保護する形で、公園を作った。

だから、多くの木が残存しているのだ。

特に、ケヤキの木は他の木の背丈より圧倒的に高く、存在感がずば抜けていた。

夜風に揺られ、葉が静閑とした一帯を打ち消すように、メロディーを奏でている。

ケヤキの木は圧巻的な風貌だ。けれど、騒がしいようで、ある種の安らぎを提供しているようにも感じる。

気まぐれな指揮者が、指揮棒を振ると、そんな気まぐれに合わせて演奏者達がリズムを刻む。

俺は、演奏会を数十秒聴いた。

何も思考せず、成り行きに身を置いて、オーケストラを注視する。

「ん? 誰かが木に寄り掛かっているな」

俺は、偶々、大木の根元に、演奏会に招待されていない部外者がいることに気付いた。

演奏中にも関わらず、指揮者に追い出された一員がぞろぞろと舞台を降り始めている。

そして、次々と、彼らは、大木の根元にもたれて静止している部外者の頭部に着地していく。

全く動かない人物を怪しく思い、顔や体型が分かる位置まで接近して、俺は、足を止めた。

「……え?」

刹那、息が止まり、脈拍が流れに棹をさし、瞳孔が開く。

俺は、知っている。静観している部外者を。

否、部外者ではない。傍聴者というほうが相応しい。

その傍聴者は聴いていなくても聴いていたのだろう。

役目を果たした演奏者達とともに、深い───それは、底が見えない───眠りについている。そんな気がした。

「───どう、して」

俺は、最後まで言葉を述べられなかった。

事実を飲み込めない。これは、嘘だ。

夢に決まっている。


「そいつは死んだ」


体に響く低音を発した誰かが認めたくない俺の心中を代弁した。

「少々、手こずったがな」

俺の背後から、一人の男が近寄ってくる。

俺は振り返ることもせず、一定の速さで、草が軋む音を聞くだけで、ぼんやりと寝ている人物を見据えていた。

男は俺の横を素通りすると、根元に接近し、立て膝をつくなり、言葉を続ける。

「世界の秩序を安寧化を謀る為、俺は部外者を粛正した。後は忌まわしき体を、魂を金輪際、この世に転生させぬ為、焼却する。全ては我々人類の為に」

漆黒のスーツに身を包んでいる男は、汚らわしいものを触るように、未だ覚醒しない者の頭を片手で簡単に掴み、そして。


「《碧い怨炎》!」


男の手から青白い炎が創造され、瞬く間に、掴んだ人物を業炎が取り囲み、途轍もない速さで体を侵食していく。現実とは思えない非論理的な仕業は魔法といえば、誰もが頷きそうだ。

たが、炎の様子がおかしい。燃やされているというより、寧ろ禍々しい炎が肉体を喰っているようだ。

「この炎は、元々怨念の塊だった。哀れな魂達は憎しみを炎に見立てて、こっちの現実に存在する人間の肉体を捕食していく。自分達が味わった地獄以上の苦しみを与えながら。全く、滑稽な話だ。こいつは既に苦しみを感じやしない。必死に喰ってるのに、肉体の持ち主が声一つあげないとなると、どっちが苦痛を感じるんだか」

男は呆れ気味に呟いた。酷くつまらなさそうに。

変に冷静な俺は、異様な炎に違和感を覚えていた。

男の手も負の炎の餌食であるはずであるが、傷一つついていない。メカニズムは謎だが、男が発生させていたからなのだろうか。

「──────っあ」

放棄していた現実が、本当に現実だと、分かるようになってきて、気が動転しそうだ。気を置いているのにも関わらず。

現実逃避をしたいなどという腑抜けな考えは毛頭ない。

直ぐにでも、この男をぶん殴りたい。

しかし、目の前で起きている非現実的な状況と、燃えている女性の姿を見て、恐怖に支配されている。

おかげで立つことは愚か、声も出せない。

喉が渇ききっている。音は掠れ、声にならない。

また、俺は行動出来なかった。俺が、残酷な運命を導いてしまったのだ。

迷いが人を───霧裂千尋を死に追い込んだ。

これは、過剰な俺の妄想ではなく、事実であり、嘘偽りは存在しない。

男は、だらしない姿の俺を一瞥すると、炎上している霧裂の体を俺の手前に投げた。

「お前の仲間か、この化け物は。答えろ。お前の返答次第で、この場を見過ごしてやる」

男の瞳は、俺を狩ろうとしている。殺意を剥き出しにしていることはまるわかりだ。

俺が何を言おうが、あれこれ理由を添えて俺を殺すに違いない。

迷いはない。瞳が全てを語っている。

それこそ、俺とは違い。

「……おれ……は」

俺は、声の調子がままならないまま、掠れたがらがらの声を漏らす。

選択しなければならない。覚悟をしなければならない。

しかし、あの時のような結果に成りたくない。

周囲の視線が俺一点に集中する感覚。それは、俺が招いた事実だった。どんな結果であれ、やがて事実となる。

俺の良かれと思った行動が、全て暗転し、最悪で終わりを迎える。

俺は、行動してはならない。結果となり、事実となるのだから。

だが、けじめをつけたい。これで、今までの結果を帳消しにするなど、到底思えない。それでも、やらなければならないのだ。

震える手に拳をつくり、震える足を無理やり立たせ、精一杯踏ん張る。

大きく息を吸い込み、吐き出す。

もう一度、深く息を吸い込み、俺は咆哮した。


「俺はっ…………俺は、そいつに騙されて霧裂を知った。それだけの一般人だよっ!」


叫びと同時に、手に握りしめていた小石を男に投げつけ、小石の行方を追った。

男は、眉を細めたが、特に何もせず、俺が投擲した小石を凝視しているようだ。

小石は放物線の軌跡を描き、男に向かっている。

致命傷は与えられなくても、隙が生まれるので、対策を練る為、一旦退くことが出来る。

亡き霧裂を供養するにも、元凶を必ず叩かなければならない。

どんな手段を使いようが、俺が倒さなければならない相手なのだから。

「愚かな」

しかし、激突間際に異変は生じた。

隙を見計らって退避しようとする俺の心意を嘲笑うかのように、小石は男にぶつからず、自ずから回避するともとれる軌道に乗り、男の真横に落下したのだ。

「なっ、外れた!?」

コントロールはそこそこだと思っていたので、まさか外れるとは考えていなかったのだが、物理的に分析しても、完璧な軌道だったことは事実だ。

小石に影響を与えるほどの風は吹いていない。

ましてや、誰も小石に触れていない。

だが、ズレ方は男を中心として見た時の球面における速度ベクトルの方向に近似しているようにとれた。

端的にいうと、男の付近で、遠心力のような力が働いた可能性がある。

もっと簡単にいうならば、物理法則的に有り得ない力が働き、小石の軌道がズレたという結果になってしまった。

「当たるはずがない。避けるまでもない。お前のコントロールがどうだろうと、今のお前では、俺に触ることさえかなわない。中途半端な奴め」

「中途半端だと?」

「そうだ。目標に投げれば当たるだろうなんて、反吐がでる。確信が無い故、お前の行動は成功しない、それだけだ」

「何をいって……」

俺の戸惑いをよそに、男は、先程俺が投げた小石を拾い上げ、俺に示した。

「ならば、宣言しよう。いくらでも避けようとすればいい。俺は今からお前が投げたこの小石をお前に投げ返す。小石は音波のスピードかつ、お前の右目が潰れる威力で当てる。そして、お前に衝突する寸前で小石を三秒間停止させる。俺がお前の投げた小石を当てることは必然的だ」

「有り得ないっ! そんな有り得ないことは出来ない……」

そう、不可能なのだ。普通の人間ならば。

この男は、普通ではない。ただの人間が炎を直接生み出すことなんて、物理法則を超越している。

たが、男は、それを可能にしてみせた。きっと、何か仕掛けがあるはずだ。

「いくぞ。抗ってみよ、弱者」

「…………っ」

考えている暇はなさそうだ。

自分の洞察力に頼るしかない。

投げ方は、ピッチャーのように、大きく振りかぶっているので、確実性を重視したストレートで投げてくるだろう。

問題は、いつ手を離すかによって、俺の生死が決まることだ。

音波のスピードが本物ならば、投げてから行動しても遅く、回避は出来ない。

つまり、小石が奴の手から消える寸前にステップするしかない。

真っ向から勝負しようとするには、小石を相殺する程の力が必須であり、力のない俺は、戦うことは出来ない。

迂闊に動くと、死んでしまうから。

だが、この男を倒せる力があるならば、俺は戦えた。仇をとる為に。

「今は、集中しろ、俺!」

男の腕は鉛直方向に伸びきっている。タイミングは、手がそこから降下する時だ。

「フ……っ!」

男がまさに投げるその瞬間。

俺は左足側に重心を移し、飛び跳ねる為に、仮想のばねを押した。


「っおおおおおぉぉっ!」


俺は声を張り上げて、左足を蹴り上げ、右方向にサイドステップを颯爽と行った。よもや、サイドステップに命かける日が来るとは。

頭一個分スライドした時、左耳付近に風を切り裂く轟音が響いた。間一髪で避けたということだ。

「…………」

男は無言でピッチングモーションを解かず、じっとしている。

仕留めた気が満々な様子だ。

不審に思い、男の視線を追って、左に振り返ると、丁度、俺の左耳からコンマ数センチで小石が停止していた。

「な、ばか…な」

本当に。

小石は重力を忘れたように宙に浮いている。

「避けたよう……か」

男はただ、呟いた。

言葉は、俺の安心感を取り除き、小石の動きに続きがあったことを思い出させた。

「しまっ……!」

それを聞き、俺は半ば反射的に、後方に下がった。

この本能的な反射には感謝しなければならない。

俺が仰け反ったのと同時に、小石は重力を思い出しただけでなく、俺の目の前を急加速して水平移動をしてきたのだ。

空を裂き、不発に終わった小石は今度こそ地面に落下した。爆音を鳴らし、地面を大破させて。

「これをくらっていたら……」

仮定の話を思い浮かべて、背筋が凍った。

右目なんかでは済まない。頭が吹き飛ぶレベルだ。

クレーターが沢山あったということは、霧裂がこの攻撃を何度も避けといたが、最終的にくらってしまって───。

「そうか、避けたか。それは」

「それは……?」

「それは、小石だ。でも、小石ではない」

小石ではない、と男は言った。

勘違いしようのない小石を投げているはずだ。

小石に間違えはない。

「小石はまだ投げていない」

「まだ? お前は小石を───まさかっ!?」

そこで俺は、先入観に捕らわれていたことに気付いた。

小石を投げたことは不変だ。

しかし、男が投げた小石が俺が投げた小石である確証はなかったはずだ。

勝手に都合良く解釈した結果、俺は、男が持っていた小石が、自分の投擲した小石だと騙されていた。

結果が、俺を更に窮地へと追い込む。

「お前は、まず、俺の言葉に捕らわれた。そして、信じ込んだ。俺がいうことを。それが、お前が弱い証だ。無様だったな、蓮」

「どうして、俺の名前を……っ」

男は俺の問いに、地面を指差した。 

そこには、焼け焦げた死体が転がっていて、性別の判断さえ出来なくなっている。

「それが、蓮と連呼していた。だから、次に来るのがお前だということは容易に推測出来る」

「霧先……」

きっと、彼女はわざと俺を突き放した。

俺が不甲斐ないのもあるが、おそらく俺を巻き込みたくないから、一人で家を飛び出してしまったのだろう。

「お前は、そいつと接触しなければ、俺に殺されずすんだ」

「うっ……お前は、何者なんだよ!」

「知る必要はない。お前はここで死ぬのだから」

男は左手の平を俺に向け、また何かを唱えた。

「《血赤の鎖》」

告げている内容が違うのは聞き取れたが、何が起きるか予想が出来ない。

「俺は、死ぬのか……?」

腕を顔の前で交差し、攻撃に備える。防御しても、無駄だろうが、せめてもの足掻きだ。

しかし、滅多打ちを悟っていたが、何も起きない。

男は不思議な能力の発動を失敗したのだろうか。

「───バカな。こいつが……」

交差を解いた俺が見たのは、明らかに動揺して、後退りをしている男の姿だった。

「いや、怯えることはない、まだ、自分を理解していない。今なら殺せる……!」

「怯える? 理解?」

男は焦燥感に駆られているように、緊迫した顔つきをしている。

「この機会は……逃さん!」

仕切り直ししたのか、もう一度、左手を前に突き出し、同様の文句を詠唱した。

また失敗を祈ったが、今度は成功したようだ。

男の左手から飛び出してきた血の色の鎖は、数秒で俺の体を包囲し、身動きを取れなくさせた。

鎖に巻き付かれているのに、金縛りにあったような、不快な感覚が体を支配している。

「くっ……」

これも、怨念とやらの力なのか。永遠に繋がれた鎖に、拘束された人間の血飛沫が飛び散り、染まっていった。そのようなことを想起させる鎖だ。鎖自身が、俺を縛っている気さえもする。

「動けないのは当たり前だ。外部からお前の肉体を拘束している。《怨体》が拘束出来ないからな」

「怨……体?」

男は先程と同じように小石を投げるモーションに入った。あくまでも、小石を当てることが、殺すことより優先らしい。

「………………」

もういうことはないといわんばかりに、威圧をかけてくる。

俺の体は束縛されたままで、避けることは出来ない。トリッキーな動きは鎖を断ち切らないと叶わず、俺に回避の手段は残されていない。

痛めつけられ、そして火炙りにするつもりに違いないだろう。

「ご……めん、しゃっ……てん。ごめ……ん、きり……さ、き」

俺は許されるとは思えないが、謝罪はしなければならない。へっぽこで、へたれな俺に接してくれたことや、俺を救おうと単身で逃亡を決意したことに。

結局、霧裂の命懸けの行動は、水の泡で終わりを迎えさせてしまったのだから。

俺は、瞼も伏せられぬまま、呆然と、小石が飛んでくるのを見つめていた。



『ヴァールっ! 俺は、僕が護るんだ! 俺を死なせたりなんかさせない!』



「しゃ…………て」

どこからか、僕の声が響き、俺を囲むように、リング状の光の層が無数に出現した。

生まれて初めて耳に入った時は、嫌悪感と不気味な感じしかなかった声。

それに、安堵感と感謝の念を感じていた。

『安心して、すぐにヴァールを転送するから』

つまり、シャッテンは、光を用いて、俺を脱出させようとしている。

助けが着たのは運が良かったが、霧裂を助ける事が出来なかった。

「シャッテン、俺……」

血が滲むくらい強く唇を噛み締めている俺が見えるのか分からないが、シャッテンは、温かい言葉を掛けてくれた。

『大丈夫。僕を信じて!』

ここは、シャッテンの事を信じておこう。  

きっと、まだ霧裂を救える方法があるかもしれない。

「……なんだ、これはっ」

空間に突然現れた閃光に、男が目を手で覆ったからか、小石のスピードが刹那、減速している。

そして、温かい光のベールの効果か、俺を拘束していた鎖に、眩い輝きが入射し、瞬く間に光の鎖化とした直後、光の鎖は、俺の拘束を解いて、光の壁に吸収されていった。

続いて、速さを回復した小石は、俺の前に展開されている光の壁に激突したのだが、壁に押し返されて方向を逆向きに変換されて、ピッチングをした男の元へと反旗を翻した。

「…………!」

両者共に、予想外の出来事。

物理的な見解は、力のベクトル方向が、一八〇度変化したということだ。

「弾性牆壁か……!」

男の言葉に記憶はないが、近い言葉ならば、物理の授業で教わった。

それは、弾性衝突という言葉で、ある平面に垂直で、物体を衝突させて、衝突前と同じ軌道、速さで戻ってくることを意味している。

俺は、弾性牆壁なる言葉が、おそらく、特殊な力の加わった物体が、衝突しても、弾性衝突が発生する特殊な壁のことだと推察した。

男は、返却された小石を簡単に避け、後方に落下した小石が生成したクレーターを一瞥すると、男はすぐに唇を歪めた。

俺にとって、急死に一生であり、男にとって、屈辱的な仕打ち。

「……お前は、お前は、必ず俺が殺すっ!」

ベールが俺を転送するものだと踏んだ男は、転送が完了する直前に、猛攻を開始した。

瞬間移動の如く、一歩で俺の間合いに突入する。最初から詰め寄られていたら、確実に命を落としていたと実感せざるを得ない。

男はとうの昔に余裕感を捨て、本気で迫ってきている。それだけ、俺を殺さなければならないのであろう。使命なのか運命なのか。

「消え失せろ、邪悪な《陽因子》よ!」

男は、再度炎を右手に纏い、ベールを破壊しようと渾身の打撃を打ち込むが、それ以上に光のベールは鉄壁であったが幸い、男は押し返され、体勢を崩した。一瞬、男は自分の攻撃が効かなかったことに対して、目を丸くしていたが、すぐに、男の表情は憎悪に溢れ始めている。

「……お前は、どこに逃げようと、俺が抹殺する……!」

確固たる俺の殺害予告を吐き捨ている男を見たのが最後、俺は男が完全に見えなくなった。



▲▲▲



「ヴァールぅぅぅっ! 間に合ってよかったよぉぉぉー!」

再び境の間に戻された俺を待ち受けていたのは、大粒の涙を流しながら抱きついてきたシャッテンに他ならない。

豊かな乳房を押し付けられ、危うくまた我を失う所だったが、何とか自我を保ち、シャッテンを宥めた。

「もう大丈夫さ。死ぬかと思ったけど、間一髪でシャッテンが助けてくれたし」

「ヴァールがいなくなってから、すぐに現実にいったけど、ヴァールが見つからなくて……。まさか、《陰怨夢》の世界にいってるなんて思わなかったんだ」

「なんだよそれ」

「簡単にいうと、夢での結果が現実の結果となる現象だよ。これは、《怨体》が最悪の未来を感知して、その未来を現実化させてしまうんだ。余程強力な拒絶する心がないと起きないから、レアケースだったりするけど。きっと、霧先さんの安否を気にしすぎていて、飛ばされたんだと思うよ。」

「……嘘みたいな話だけど、現実味が無かったし、夢だったのか。それで、その夢は、場所や時間を問わず起きるのか?」

「基本的には抽象的な空間内に意識があるときだね。気がついたら……って、パターンが多いよ。補足すると、夢は夢でも現実だし、起きたことはいずれ起きるかもしれないから、ただの夢って思わないで欲しい」

なら、先刻の惨劇は、《怨体》とやらが導いた最悪の結末だったわけだ。

場所が公園だけに、最悪の結果になりうる。

その結果は、例え夢とはいえ、霧裂を救えなかった。もう、あんな思いはしたくない。

「───シャッテン。いまから質問攻めするけどいいか?」

それから、俺は様々な質問をシャッテンにした。

まず、《怨体》。それは、生命を持つ全ての生き物に存在する不可視で粒子状のエネルギー体であるとのこと。

ゆりかごから墓場まで、大抵の生き物は《怨体》に影響を受けないらしいが、中でも人間は例外だというのだ。

人間は知らず知らずの間に、《怨体》のエネルギー密度を増加させている。原因としては、感情表現が豊かであるから。特に、恨み辛みなど、怨念にまつわる感情は《怨体》の活動を活発化させる作用を促している。

様々な要因で、膨大なエネルギーを蓄えた《怨体》は次の段階に移る。

高純度なエネルギーは更にエネルギー源を吸収しようと、外部からのエネルギー供給をいっそう促進させる波を発生し始める。

勿論、生き物は全く感じることが出来ない周波数で、ある思念体のみに届くようになっているのだ。

それが、主に悪霊である。

全く信じがたいことだが、現に、不可能な力を目撃してしまっている。逆説的に考えると、その力の大元が、思念体にあることを予測出来てしまう。

悪霊が存在しているとして、悪霊が特殊な波を感知すると、悪霊にとって、非常に嬉しい状況になるのだ。

悪霊が《怨体》の波を辿り、《怨体》が存命している媒体の内部───その場所を《怨場》という───へと侵入することができ、あろうことか、《怨体》を侵食して、媒体の精神状態に付け込むことが可能になる。

つまり、《怨体》を乗っ取り、媒体自体を操ることを示唆しているということだ。

《怨体》のエネルギー源泉の始まりは感情である。

人間は只でさえ、感情に左右されやすい性質であるが故に、感情というシステムに欠陥があるのは致し方ない。

傷口があるならば、病原菌は容易く体内に潜ることが出来る。

しかし、体内には白血球がいる。症状を引き起こす大抵の菌は白血球に撃退されるのは言わずもがなだ。

だが、感情には白血球のような自己防衛を搭載していない。強いて呈するならば、自我である。

確かに、自我は時に感情の起伏を正常に戻す働きを持っている。自我ごと支配される場合を除いて。

要は、例え巨大な盾を構えようとも、それが、薄っぺらい紙で構成されているならば、もはや、盾の意味がない。

思念体に拿捕された《怨体》は身体の中枢を制圧し、人間を操縦する。これは、感情や、情動といったものが、人間の思考形成や、行動の種となるからだ。

このことは、思念体が《怨体》に干渉する様から、《怨体干渉》と名付けられている現象らしい。

普段大人しい《怨体》が感情の激昂と外部の干渉により、人間の身体能力を遥かに上回る力を発揮できるようになる。

物理世界の法則を無視したり、不可能な現象を顕現させたりなど、現実性に乏しい事を可能にするのだ。

この超常現象を引き起こす力を《念力》と呼ぶ。

人間の心を征服した思念体は、非常に危険だ。表沙汰ではないが、人間を殺傷する事件も水面下で広がりつつある。 

死に損ないが間接的に復活し、取得した未知数の力を思うがままに使用し、世界を崩壊させるのを阻止するため、結成されたのが、人間守護組織───通称、ジークムントという。

組織を作り上げた人間は、既に《怨体》の侵入を受けていた。

本来なら人間を苦しめる者が人間を護る組織を作ったとなると、矛盾が生じるのだが、それは根底が間違っているらしい。

全ての思念体が悪霊な訳でもない。つまり、人間を加護する霊もいる。

思念体の存在比───霊比は断然悪霊が過半数を占めているが、半分近くは他の霊が占めているのだ。

他の霊グループの内、人間を加護する思念体は善霊、中立的なポジションに位どっている思念体はまた無霊と称されている。

基本的に、善霊は《怨体》に反応して侵入する原理は変わらないが、目的が違い、その目的とは、不幸が起こりうる媒体を救うことだ。

悪霊同様、信じられない力を解放する。

《怨体干渉》を受けて、暴れそうになった人間の《怨場》に突入し、自我を呼び覚ます。

平和に満ちていた裏で、こうして悪と善が拮抗していたとは、誰が推察するだろうか。

「で、シャッテンも思念体とやらなのか?」

説明して疲れ果てたシャッテンを追撃するように、俺はまだ疑問を投げかける。

「えっと、僕は……ちょっと特別なんだ」

「特別? どっちにも該当しないのか?」

「うん、僕は特別。思念体じゃない」

「……ただでさえ、訳解らん説明をして、更に例外だって?」

俺は溜飲を下した。


シャッテンによると、幅広く捉えるならば、思念体の集合には属しているが、根幹の存在定義が異なるのだ。

「あ、僕のことの前に、重要なこというね」

シャッテンは自身の説明の前に、俺が知るべき事情を伝えた。

悪霊や善霊は、死者の魂が弔わずに非実体として世界を徘徊している。つまり、完全に死んでいないことをいっているのだ。

非実体とは、生きている人間の視覚情報に肉体を失った人間の存在情報が盛り込まれないでいる状態───光の透過率が百パーセントで、物体をすり抜けることが可能な状況で、存命している生命体のことを指している。

この定義に納得することができるならば、大のつく天才か、大のつくうつけ者だ。

何故なら、人間が死亡したら、それ以外なにものでもないからである。

息を引き取った人間が、動かないだけで、生きているとは思えない。

要は、死んだら死んだで、生きていないということ。

人の死に立ち会いした者ならば、生存者が死者になる瞬間を必ず見ているだろう。

呼吸は止まり、心臓の鼓動は停止し、瞼は閉じられ、握り締めていた手は力を無くして静かに解かれる。


死んだ。



人間は、人間としての生命活動を終えた状態を死と定めた。

それ以降の人間の行方を知る者は神のみぞ知る。

されど、人間は、様々な行方を熟考した。

天国あるいは地獄にて魂が浄化される説や、輪廻転生する説など、多くの人間が説を発表し、今日に致まで、論議を重ね続ける。

結局、どれが正しいか、間違いか、判ることは出来ていない。

「───だけど、人は登頂したんだ」

しかし、俺がシャッテンに訊いた事実はとても常識的にはかれないものであったのだ。

「人間は死なない。人間は生きたままだ」

魂が浄化されず、現世に留まる説に似ている。

ただ、違うのは、人間の不可視領域で人間が生存しているということ。

非実体の話に結びつければ、実体と非実体が、お互いを認識せずに、両者が存在しているといったところだろう。

つまり、死んだ人間はどこにも行かず、現世に逗留する。

世界は、生きている人間の世界と死んだ人間の世界の二つがあり、二つの世界が交差することせず、ずっと存在し続けるのだ。

死という概念が存在しない。

生という概念のみ、存在する。

思念体が見えない訳ではない。見ることが出来ない。

それが真実であると、シャッテンはいった。

「本当は霊なんて呼び方じゃいけないんだよね。誰も死んでやいなかったのさ」

「でも、死ななきゃ、もう一つの世界に行けないんだろ?」

「そうだね、死ではなく、転送といったほうが適切かも。転送された人間はまず、元いた世界における死の瞬間の状況で、意識は覚醒する。病院で亡くなった人は点滴の繋がれたベッドの上で、マンションから飛び降り自殺した人は落下した地面で」

「……痛みは、ないのか?」

「痛みなんて感覚は、存在しないよ。そもそも覚醒した人間はなぜ自分がこの場所にいるんだろうって、疑問を抱く。それから、程なくして自分が死んだことを思い出す。正直、人はパニックに陥るよ。特に、自殺を図った人は」

「それで……どうなるんだ?」

「転送された世界の理が、途端に再生されるかのよう、脳内で補完されるんだよ。その世界で再び生活を始めてもよし、はたまた、とある条件で、元の世界に帰ってもよしってね」

「そんな簡単に選択出来るのか? そもそも、死んだと思った人の中には、それこそ極楽浄土を望む人もいるかもしれないのに」

この世に悔いはないと、死んでいった俺の祖父を思い出す。

もしかして、祖父も、違う世界で再び生きているのだろうか。

「そーいう信念が強い人達は、基本的に、生き返らない」

「それって、死ぬことじゃ……。人は死なないんじゃないのかよ」

「うん、死なないよ。転送されずに、元いた世界で思念体として生まれ変わる。生きている人間には見えないけど、現実世界に存在しているんだ。でも、最終的に死に近くはなるよ。存在の形を失って、《怨体》に還るんだ」

「《怨体》に……。もしかして、現実世界にいる見えない人達は善霊で、転送された世界にいる人達が悪霊なのか?」

「そう、まさにその通り! でも、不思議だよね。《怨体干渉》をするのは悪霊が多い。違う世界にいるのに、なぜ? ってね」

確かに、シャッテンのいうことはごもっともだ。

どのようにして、現実世界に戻り、憑依みたいなことをするのか。

「実は、転送された世界は現実世界と繋がっているんだ。現実世界で死んだ人間は現実世界で認識されないけど、人間が生きている世界に行くことはできるんだよ。だけど、人間が転送される時以外、逆は無理なんだよね」

「どうしてだ?」

「それは、僕も知らない」

「なら、根本的な質問で悪いけど、何故、人は死なないんだ?」

「ごめん……わからない。それと、どうして転送される世界があるのかもね。ジークムントの関係者が全てを知ってるって耳にしたことあるけど……」

「含みがある言い方だな。……ひとまず、暗黙の了解ってとこか」

全て、とは何を表しているのか。

両世界の因果関係及び、人間の死に関わる秘匿情報など、全ての答えが、ジークムントにはあるということなのかもしれない。

「大体、シャッテンの説明で、俺が足を踏み入れている状況がなんとなく分かった。この際だから、もう何でも柔軟に受け入れていこうと思う」

徹底的に真理を追求したいが、抽象的であったり、説明がつかないことがあったりするので、事実が事実というならば、事実として、受け止めていく。

しかし、何故ここまで数多の情報を有しているのだろうか。真相を辿ろうとすれば、またちんぷんかんぷんなことをぺらぺらと喋り通すのだろうから、ここはシャッテンを信用して話を進めるしかないようだ。

「さて、どうしたものか」

とある条件を付けられ、現実世界へと、違った姿で帰還した悪霊、もとい人間は、果たさなければならない任務がある。現実世界の人間が自分達を見えないことを知って、彼らは好き勝手に暴れ放題であるのだ。

《怨体》の構成粒子の一つに含まれる善霊は、何も出来ずに悪霊に飲み込まれてしまうらしい。

存在比が多い悪霊には、善霊は勝てないというレッテルが貼られているのが問題なのだが、稀少な《怨体》を持つ人間には、悪霊は入り込める余地がない。

それは夢で俺を襲撃した男が口にしていた言葉───《陽因子》と呼ばれる特異体質の人間がいるのだ。

《陽因子》は一般的な人間の《怨体》構造とは異なっている。

普通の人間は悪霊の影響を受けやすい《怨体》を保有しているのだが、《陽因子》は悪霊の影響をシャットアウトするだけでなく、善霊の影響のみ受けるというのだ。

ジークムントの構成員は、少数が《陽因子》で、後は、奇跡的に善霊の加護を受けた一般的な人間であるらしい。

「後、中には、悪霊の《怨体干渉》を逆に利用して、悪霊ごと使役している強靭な精神を持つ人もいるんだ。《陰因子》といって、《陽因子》の反対の人がいることには驚いた。でも、残念なことに、大抵はみな、悪を働くこと好んでいる。どうして、そうなのかな」

シャッテンは、悲しそうな声色で、呟いた。

皆が悪事を働かないことは理想に過ぎないのだろうか。

悪事を働く人間は、悪事と認識せず、正義だと思っている人もいるに違いない。

人は全員が相容れることは出来ないのか。

いや、だからこそ、争いが起きるのだろう。

「でも、良かった。ヴァールは悪霊が寄り付かない《陽因子》で」

「……え?」

シャッテンは嬉しそうに頬を弛めている。

だが、俺はシャッテンの発言に驚嘆していた。

「俺が……《陽因子》? ちょっと、まて! それって善霊の加護を受けてるんだろ? あの野郎も俺をそう呼んだけど、なら加護が働いて、不幸なことは起きないんじゃ」

「加護といっても、何もしなければ、運が良くなるだけなんだ。悪霊に侵されている人間を救うには善霊が介入しなきゃいけない話しはしたけど、善霊だけでは無理なんだ。つまり、媒体が善霊の力を引き出すことによって、初めて侵された人を救えるし、強力な加護が生じるってこと」

「善霊が、俺に《怨体干渉》をするんじゃないのかよ? 引き出すって、そんな自発的な……」

「それは、操る為に悪霊がする強制的な力の引き出し方だよ。善霊はそんなことしないし」

「じゃ、俺が力を引き出すには何をすればいいんだ?」

「《怨体調和》。それが、自発的な力の引き出した方だよ。《陽因子》に存在する《怨体》の糧は、勇気、愛、正義とか、ポジティブな感情や精神なんだ。誰かを助けたいとか、強い願いで、善霊が導かれ、《陽因子》に力を託すんだ。これは、《陽因子》と、善霊の協調精神が重要で、お互いを信頼しないと、力は使えないね」

「お互いを……か」

まさか、自発的な《怨体干渉》があったとは。

いくら善の心を有する人間とて、強制的な行動を実行するのかと思っていた。

しかし、昔から俺は最悪の結果を周囲に与えていた。《陽因子》ならば、運気は上昇していて、少なくとも、迷惑はかけなかったはずだ。

「……いや、今は今を見つめよう」

これで、俺は戦うことが出来る。戦うことが。


「ん? もしや、俺って、戦うのか?」


「へっ……?」

シャッテンは、目を白黒させ、何度も瞼を擦っている。

「そう、だよ? 悪事を働く人間を成敗するための力以外何に該当するのさ」

「死ぬかもしれないだろ!?」

「だから、死なないって。それに、さっきのことで力を欲っしてたよね?」

「……ですよねー」

今更、男に殺されかけたことが脳裏によぎり、身を守るためにも必要だと念じた。

そもそも、男は力を使っていたではないか。

「それと、霊という名の人間がなぜ、力を与えることが出来るのかだけど、それは、思念体が現実世界の人間に呼応して、人間の感情を揶揄するものを創造出来るからで、思念体によって、力の種類は異なるってことも覚えといてね」

「あの男の力の生出論理はどれか分からないけど、恨みがリソースだったわけか」

だが、なぜ、男は俺と霧裂を恨んでいたのか。

男の執念はかなり深そうだった。組織的な恨みなのか、個人的な恨みなのか、はたまた、別種の恨みなのか。

「ヴァール」

考えにふけようとした俺に水を差すように、シャッテンは念押しをしてきた。

「何度もいうようだけど、一番大切なのは感情だよ。感情の度合いで力も変わっていくんだ」

感情。それが、今後における戦いの中で、重要な担いをするのだろう。

「俺が受けた金縛りみたいな鎖の拘束も、恨みの強さに比例して、発生させていたのか」

ならば、感情次第で、何でも出来るということになる。

勿論、思念体によって、制約はありそうだが。

小石を避けたことや、不可能な動きを可能にしたのも、執拗に俺を痛めつけようとしたからなのかもしれない。

「思念体の影響は、一つだけしか受けないのか?」

「《怨体》の量によるね。《陽因子》や《陰因子》は、何個とは断言出来ないけど、たくさんの力を行使出来るよ。器次第で、同時に違う力を使ったりとか」

「男は、二つの力を使っているように見えたんだけど、あいつは《陰因子》だったからか?」

「一概にはいえないけど、多分、《陰因子》かな。いい忘れてたけど、基本的な力の区別は三つあるんだ。攻撃系統の力と、補助系統の力や、防御系統の力だね。そして、力を顕現化させる為に、力を行使する者の肉体を経由するんだ。《怨体》が身体の中にあるんだから」

男は、右手からは攻撃系統の力、左手からは防御系統の力を確かに発動させていた。

「なら、肉体を経由していれば、別の物体にも力を移せるってことか」

「男の投げた小石が例だね。一度触れさえすれば、物体にも存在する《怨体》にも影響は与えられる」

「なるほど……」

とりあえず、大筋の力についての説明は頭に叩きこめることができた。

後は、実戦で自分が何を出来るのか知らなくてはならない。

「いきなり実戦で知る必要があるとは……って、結局シャッテンについて、何も知らされてないな」

ここで、俺はすっかり忘れていたシャッテンについて、言及してみることにした。


「シャッテン。お前は一体何なんだ?」


シャッテンは、一瞬惚けた表情をしたが、すぐに相槌を打った。

「あ、そうだね。大分脱線しちゃったみたいだけど、僕について説明するよ」

シャッテンは意気揚々な雰囲気での説明を止め、真剣な眼差しになった。


「僕は───二つの世界に存在が無い者。《準霊体》ともいわれる虚実体だよ」


こうして、ようやく理解が追いついたと思った矢先、新たな謎が浮上してきたのだった。


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