表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未知へ  作者: 笛吹き
2/4

生存者

2092年7月11日

「惑星デルタe-3の記録を開始する」

と成川は防護スーツに内臓された記録デバイスに向かって言う。

今回の件について成川は期待をしていた。



「人は知ろうとする。それどころか、人の祖先となる生物でさえ、その知的欲求を持っていた。だからその要求に応えて内なる宇宙、脳を発達させたんだ。いいかい、成川くん、分野が異なれど、学問はすべて知ろうとした結果生まれたものだ。だから、本質は皆変わらない。君はその方向性を宇宙に向けただけだ。

もちろん、宇宙は知的探求を具現化したものかもしれない。

だが宇宙の行き着く果ても周りと同じものを指し示すのだろう。」

成川が通っていた大学の江口昭人(えぐち あきひと教授が彼の修士論文を読み終えてそう言った。


彼は、その人の言葉をたびたび思い返していた。

ハッチが開こうとしている。

惑星デルタe-3の表土は、地球と酷似していた。そのため先陣の調査隊は、そういった面からも開発の可能性を見出していた。

しかし、天候の変動の激しさ、窒素濃度の高さなどという難点も抱えていた。

だが、そういった気候に対する問題は、先述した大気還元装置で、克服ができると思われていた。

 

ハッチが開き、クルーたちを惑星の空気が包む。

皆一様に外の景色を見つめている。

空は、本当に地球を出たのを疑うほどそっくりだった。

しかし、2つの恒星がその違いを表していた。

「では、みなさん、マルチランドタンクにお乗りください。

今回のバギーの方は、こちらです。」

とトールが皆に注意を促す。

続々と専用の車両に乗り込んでいくクルーたち。

アルシアは、この探索チームの現場監督的立場のため、船に残っていた。

そして、このニューメラスホープ号の操縦主任ベネット・アクトン、操縦補佐オロフ・ハリンの2名も緊急事態に備え、残った。

そして、アンドロイドのポールはアルシアと共にコントロールルームと言われる情報が集まる部屋にて逐次、状況確認をしていた。


探索用車両は、走り出す。

着陸したポイントの土壌は、水分が足りないのか、土ぼこりを起こす。

レベッカは、無機質にランドタンクを運転する。

バギーを運転するのは、用心のために雇われた傭兵ミヒャエル・ベッカー。彼は、首元から生々しいやけどの跡を見せる男であった。寡黙であることが彼の険しい雰囲気を増していた。

もう1機バギーが走り出していた。トールである。

走行中は、ベッカーと目が会うたびに、笑顔で返すが、ベッカーは、それを確認する程度で再び前を向くのだった。

成川は、いつもの惑星探査とは、異なる空気を感じていた。

「成川さんだっけ?大丈夫か?」

と声を掛けたのは、オレク・シバエフ、ロシアの生物学者である。

「いや、大丈夫だ。ただ、いつもと何か違うんだ。」

するとオレクは、少し驚いた表情を見せてから、小声で成川に話をする。

「あんたもか?俺もこういった臨時の惑星探査をした事はあるが、妙だぜ。今回のは。」

「ふつうグループ内のブリーフィングがあっていいはずだ。惑星探査っていうもの事態、常に未知だからこそ、探索方法をグループに合うように検討していくんだ。

その上で、必要になる資材を用意していく。それでようやく、中継ステーションから、目的の惑星へ出発するんだ。」

成川が、今まで自分自身が行ってきた行程をオレクに言い聞かせる。

「あんたでもそう思うんだからきっとそうなんだろうぜ。しかも今回は、救出しかなきゃならないのに、学者ばっか連れてきてどうするんだって話だ。

傭兵1匹、医療スタッフ2人ってのは、緊急事態に対して随分とまぬけすぎるだろ。」

オレクは、やはり、運転席にアンドロイドがいるためか、ちらちらと前をみる。

「大丈夫だ。そとの音もすごいし、皆話をしている。」

と成川は、察してオレクをなだめる。

オレクはすこし、挙動不審に

「エイリアンでもいるんじゃねーか。」

「そしたら、君は、検体を持って帰っていちやく有名人だな。」

「冗談になってないんだよ。」

少々苛立ち気味で、オレクは、言う。しかし、オレクは、成川の顔を見て発言していない。

「大丈夫、僕もなんどか、地球外生命体を見てきたが、皆一様に僕たちを恐れてすぐ逃げてしまったよ。いきなりよそ者がくるんだから、恐ろしいのも仕方ない。ただ、油断できないのは、その理由がわかっていないことだし僕が運よく襲われなかったということもある。」

オレクは、成川の言ったことに対して、面白そうな顔をして、

「なるほどね、未知な事が多すぎて、その事じたいが、あんたにとっては、恐ろしいのか。」

少し、余裕が出てきたのか、苦笑いをするオレク。

成川も同じように少し笑うが、

「当然、恐ろしいが同時に興味深くなってくるんだ。だから、その興味がいつも恐ろしさを越えて、僕に行動力を与えてくれているんだ。」

そう言うと

オレクは、すこし、拍子抜けした顔をして、

「もう、エイリアンをみつけちまったかもしれない。」

とだけ言った。


数キロ程度走ったころに

「みなさん、目的のグリニッチ号に到着いたします。

装備の準備とどうか、心の準備を」

とアンドロイドらしからぬ冗談を言うトール。

ランドタンクから降りるクルーたち。

まず、目に飛び込んできたのは、

多少の損傷はあるものの大きくは、大破していないグリニッチ号の姿であった。

「ますます、エイリアンくせーな。」

とオレクは、小言をだす。

トールは、

「みなさん、こちらがハッチのようですね、来てください。」

この惑星は、重力がほぼ地球と同じため、みな一様にトールのいるところへ、

ぞろぞろと歩いてゆく。

ベッカーは、最後尾についてゆこうとするが、レベッカが、先に行くように手で促す。

『フシューーー』

ポールは、いとも簡単にハッチ付近の電子基板をいじり、自動ドアを開く。

少量の煙幕と共に一行は、船の中に入る。

「レベッカ、中央エネルギー室に行って予備バッテリー接続して。」

とアルシアが船から指示を出す。

レベッカは、取っ手の付いた1メートルある筒状のものを持って単独行動を始めた。

「みなさん、レベッカは、この船の動力を回復させるために単独行動を始めたのです。」

とトールが説明を加える。

一行は、メイン通路にでる。

「まず2班に分かれてもらいます。

あちらにいるわが社の探査アドバイザー、リュシー・ベルと私、トールの班に分かれていただきます。」

有無を言わさず、クルーたちは、2班に分かれた。

「成川光一さん、あなたに会えて光栄です。」

ベルが成川にそう言った。

成川は、ベルの班にいた。

「僕なんてたいしたことありませんよ。」

「日本人の方のそうした謙そんの仕方は、すこし違和感を感じます。」

閉口してしまう成川。

その表情を見るとベルは、にっこりと笑う。

ベル班は、ある部屋の扉の前に立つ。

ベルは、モバイルオペレーターを起動させる。

「さっきから、あんたが、通路に張り付けてるのって最新型だろ?」

スペインの地質学者、ガエル・バンデラが、ベルに向かって言う。

「ええ、よく知っていらっしゃいますね。空間自動再構築アシストポインター、通称S.A.R.A.P。

これは、わが社の最新型になります。」

と機械的説明を行うベル。しかし、突如として不意を突かれた表情を見せる。

人型の反応をみせるモバイルオペレーター。その人型の反応は、

一行の前に忽然と存在する扉の向こうであった。

「早い段階で見つかりましたね。」

とベルは、プラスチック爆弾を扉に付着させ、

「みなさん、離れましょう。」

迅速に集団を移動させ、発破する。こういった動きは、会社の教育マニュアルによる成果なのだろうか、それとも彼女自身の資質なのか、

成川はその瞬間、ふと感じた。が、すぐに彼の関心は、部屋の中へと移行する。

彼らの目に映ったのは、

コールドスリープ中の女性のクルーであった。

「これは、オーバースリープの可能性がありますね。」

と言うと、ベルは、コールドスリープの操作パネルに触れ、なにかの作業を行う。

電子音が鳴り響く一室の中で、クルーたちは、部屋の物色を行う。

医療スタッフの1人、アメリー・ビアーマンは、ベルの操作するパネルとは、異なるパネルを操作し、

「チーフ、準備が整いました。」とベルに一言。

お互いに目配せを行うとベルは、全員に対して、

「彼女をスリープ解除します、注目してください。」



「トール、やはり、グリニッチ号は、かなりでかいな。」

とオレクが、トールに対して発する。

「ええ。この惑星に対するわが社の期待値は、かなり高かったようですね。

これより向かうのは、この船のメモリールームになります。」

と歩きながら後ろにいるクルーたちを見ずそういう。



「落ち着いてください、我々は、あなた方の救助を目的としています。」

とベルが言う。

コールドスリープから目覚めた彼女は、多量の嘔吐を繰り返したため、簡易点滴を受けている。

目覚めた当初よりも血色が良くなってきたものの、彼女の眼には、生気がなかった。

「私の名は、アンナ・ホール。あなたたちは、何を知ろうとしているの?そしてそれがあなたたちに何を引き起こすの?」

皆一様に彼女を凝視する中、彼女の持つ雰囲気、そしてその発言の奇妙さに唖然としていた。

セミロングの彼女の髪は、カプセルの培養液で濡れていたが、アンナはそんな自分の状態に対して興味がないようであった。

「ほかのクルーの方は、どこへ?」

「そうね、みんな行ってしまったは?」

ベルは彼女の態度が気に入らなかった。すこし、眉間にしわを寄せ、その要領を得ない返事に対してより細かい質問を行う。

「この船の数キロ先のポイントにある遺跡に行ったのですか?」

「いいえ、宇宙の果てよ。」

成川以外のすべてのクルーが、恐怖と疑念を抱く中、

成川の顔だけは、期待に満ちていた。

成川は

「ホールさん、クルーの皆さんは、エネルギー生命体になったのではないですか?」

と発言した。

それにより、そこにいた者の目線は、成川に集中した。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ