嘘吐き部の嘘ー子さん
許さない。決心したアタシは、嘘吐き部のドアを叩いていた。
嘘吐き部。依頼主の要求を全て嘘で達成してくれるという部活。
正式な部活じゃなくて、生徒の間だけに伝わっているヒミツの部活。
「やぁ、いらっしゃい。ようこそ嘘吐き部へ」
部室に入ったアタシを出迎えてくれたのは、ソファに横になって足を組んでいる長い黒髪に釣り目がちな、眼鏡を掛けた女子生徒だった。
「あ、あの」
「あぁ、いいよいいよ。君の事は知っている。私の事は嘘ー子さんと呼んでくれたまえ」
「キョーコさん?」
「違う違う、キョーコさんじゃない、嘘ー子さんだ。嘘の子の嘘ー子さんだ。嘘から生まれた嘘ー子さんだよ」
まぁ、適当に座りたまえ、と嘘ー子さんは寝転がったままアタシに椅子を勧めてきた。
「ヒツジ君、彼女にお茶を」
「え? ヒツジ?」
「畏まりました」
「きゃ!?」
いつから居たのか執事服を来た男の人が慇懃に頭を下げてお茶の準備をし始めていた。うわぁ……驚いて変な声出しちゃった。
執事服を来たヒツジさん(冗談で付けた綽名だよね?)は、紅茶とクッキーを用意してくれた。
さて、と嘘ー子さんは寝転がったままクッキーを齧る。欠片がぼろぼろ落ちてるんだけど……
「君誰だっけ」
「え。さっき知ってるって」
「あぁ、済まない。あれは嘘だ。私は初対面の人には先ず一つ嘘を吐く事にしているんだ」
ただのキチガイだこの人。どうしよう。
「取り敢えず自己紹介を頼むよ」
そう言いながら嘘ー子さんはクッキーをぼろぼろ落としながら言う。ヒツジさんが下でクズを掃除していた。
「えと、アタシは二年生の秋月陽花です。嘘吐き部に依頼をしたくて……」
「成る程、陽花君だね。依頼の内容は何かな?」
「……親友に、仕返しがしたいです」
「そうかそうか、陽花君は親友だと思っていた加奈子君に裏切られて、最近クラスでイジメられる様になったから復讐をしたいと」
「……はい」
「いいよ。引き受けた」
「本当ですか?」
あぁ、と言いながら嘘ー子さんはソファから起き上がる。
「但し、一つだけ条件がある。依頼を受けるからには報酬を貰いたい」
「いくら、ぐらいですか?」
アタシが訊くと、嘘ー子さんは突然のけぞって爆笑した。……大丈夫かなこの人。
「あっははははははは! 面白い事を言うね陽花君は。お金なんて要らないよ、嘘を吐くだけでお金を貰うなんてとんでもない!」
「え、え。じゃあ報酬って何を」
「キスさせてくれたまえ。私は可愛い女の子に目が無い」
「…………」
「済まない嘘だ。嘘ー子さんはノーマルだ」
「はぁ」
何処まで本気か判らないこの人……。
「報酬は質問に答えてくれるだけでいい。『嘘を理解しているか?』」
「嘘を理解? ……どういう」
「言葉のままの意味だよ。あ、ヒツジ君、お茶のお代わり」
ヒツジさんがお茶のお代わりを嘘ー子さんのカップに注いで渡す。お茶を一口飲んで嘘ー子さんは言う。
「ただ思った事を言ってくれるだけで構わないよ」
「えっと、じゃあ……」
アタシは答えた。
「嘘は悪い事だと、思います……けど、自分を守る為には、必要だと思います」
ふぅむ、と嘘ー子さんは興味深そうに目を細める。
「判った判った。了承したよ。では『親友への復讐』、引き受けよう」
それから嘘吐き部への依頼の効果はすぐに表れた。
イジメの対象はアタシから加奈子に変わって、クラスで加奈子は完全に孤立していた。たまに、加奈子はアタシの事を死んだ様な目で見てくるけど、その意味は判らないし、知りたくもない。
嘘ー子さんはどんな嘘を吐いたんだろう? どうやってアタシと加奈子の立場を逆転させたんだろう? 気になったけど、アタシは無視する事にした。
今はただ、自分が助かった事がとても嬉しかった。
けれども一ヶ月後、あっという間にアタシは元の立場に戻っていた。
何故かイジメの対象がアタシに戻り、またクラスの中で底辺に逆戻りしていた。
訳が判らず、アタシはすぐに嘘吐き部のドアを叩いていた。
「一体どういう事ですか嘘ー子さん!!」
「あぁ、陽花君か。どうかしたのかな?」
「どうもこうも! 何でまたアタシがイジメられる事になってるんですか?!」
訊くと、嘘ー子さんはつまらなそうにソファに寝転がって欠伸をした。
「何だ。簡単な事だよ、嘘がバレたんだろうさ」
「そんな……! 無責任な!」
おいおい止してくれよ、と嘘ー子さんは面倒臭そうにソファから起き上がる。
「訊いた筈だろう、『嘘を理解しているか?』って。バレる事こそ嘘の華、信じられたままの嘘だったら、それは真実じゃないか」
全く、と嘘ー子さんはまたソファに寝転がって、ヒツジ君、と言った。
畏まりました、とヒツジさんは応えると、アタシの事を部屋から連れ出そうとする。
「ちょ、ちょっとそんな! ふざけんな! 嘘吐き部に頼めば、依頼を嘘で達成してくれるって」
アタシがヒツジさんに締め出される直前、嘘ー子さんはソファに寝転がって呆れた様に言った。
「あのね陽花君、嘘ー子さんは嘘吐きなんだ」




