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黄昏の彼方~碧き蠱惑のミューゼ~  作者: 河野 る宇
◆第11章~決戦
25/27

*それぞれの価値と重さ

 格納庫の裏口から出ようと、2人の男が足早に歩く──

「こちらにヘリがあります」

「よ、よし」

 1人は深緑の軍服に身を包み、別の1人の手には四角いジュラルミンケースが握られている。

「それはオメガかね」

「!?」

 背後からかけられた言葉に驚いて振り返る。

「!」

 振り返った1人に、ノインは見覚えがあった。

 鋭い目をした長身の中年──「ベリルを撃て」と命じた元上官だ。50代間近の男は、未だその強さが健在のごとく軍服を着こなしている。

「ギュネイアスと言ったか」

「うん。そう」

 自分の名をあげられ、男はピクリと片眉を上げた。

「特殊部隊を周りスカウトをしていたようだ」

「人殺しのスカウト?」

 ベリルの言葉に、ノインは唇の端を吊り上げる。

「ギュネイの横にいるのは組織のボス?」

「おそらく」

 いつの時代も、悪者は仲間を放って逃げるのね……ノインは肩をすくめた。

「仲間? いると思うかね」

 薄く笑んで応えた。

 そんな2人に、ギュネイアスたちは銃口を向ける。ノインはそれにさしたる関心を示さず、ボスの持っている銀色のケースを見やった。

「あんなのに入れて大丈夫なんだ」

「扱いは安易だと言ったろう」

「え、でも反物質なんでしょ?」

「似ているが異なるモノだと言ったハズだ。そもそも反物質は他の物質に触れた瞬間にエネルギー化してしまう。今の人類の科学力では反物質を維持させるのは不可能だ」

「そうなんだ。あ、でも空気中にプカプカ浮かせれば?」

「酸素も物質だという事を忘れていないか」

「じゃあ真空にすれば?」

「真空は酸素が無い状態であって物質が無い状態ではない。質問は後にしろ」

 ベリルは眉間にしわを寄せる。

「ノイン」

 ギュネイアスは苦い顔でノインを睨み付けた。

「そういえばあたし、本当の名前、知らないんだよね」

 ふとつぶやいたノインをベリルは一瞥する。

「あたしは9番目だからノイン。何の9番目かは聞いたけど忘れた」

 だから、今はこれがあたしの本当の名前……ノインは小さく笑った。そして、ギュネイアスを見据える。

「確か、あんたが付けてくれたんだよね」

「……」

 ノインの強さを知っているギュネイアスは、オレンジの瞳をただ見つめた。

「逃げ場は無い。武器を降ろせ」

 ボスとギュネイアスはベリルを睨み付けた。

「どのみち殺す気でいるんだろう」

「否定はしない」

 問いかけたギュネイアスにベリルは薄く笑う。

「そんなことを言われて、降ろすバカがいると思うか」

「それもそうだな」

 ボスの言葉に肩をすくめた。

「援護を頼む」

「わかった」

 ベリルは体勢を低くし、ギュネイアスたちに駆け寄った──2人は慌てて引鉄ひきがねを引くが、ベリルの後ろからノインが威嚇射撃を放ち、向かってくるベリルに照準を上手く合わせられない。

「くっ……」

 ギュネイアスが1人で逃げようと、裏口に向かった。

「逃がさない」

 ノインはつぶやいて、ギュネイアスに照準を合わせる。ギュネイアスがドアノブに手をかけた刹那──

「がふっ」

 ノインの放った銃弾は、彼の胸を見事に貫いた。

「自分だけ助かろうなんて、あまいんだよ」

 吐き捨てるようにつぶやく。

「くっ、来るな!」

 ボスが必死の形相で叫ぶが、ベリルは構わずに駆け寄って筆箱ほどの大きさのケースをバックポケットから取り出す。

「!」

 時限発火装置だ……ノインはすぐに理解した。

「!」

 目の前まで接近されたボスは、見下ろすエメラルドの瞳に声も出ず呆然と見つめる。

 ベリルは、固まっているボスに目を細めジュラルミンケースにソレを取り付けた。

「10分後に爆発する」

「なんだと!?」

 必死に時限発火装置をはがそうとするが、ソレはぴたりと張り付いていて剥がせるものではなかった。

 ジュラルミンの中身だけ取り出そうにも、フタとの境目に設置されている。

「貴様! よくも……」

「お前の顔はよく覚えているよ。10年前だな、中東の村を襲った者たちの中にいた」

 ベリルは低く発し、鋭い眼差しを向けた。

「!?」

「え?」

 ベリルは静かに口を開く。

「ヒューゴ・アンダーソン」

「!」

 ヒューゴの指が引鉄ひきがねにかかる──

「げぶっ!?」

 男が引鉄を引くよりも速く、ベリルはオメガを放った。ヒューゴは胸の穴から血を噴き出し、ゆっくりと倒れ込む。

 ノインは、オメガの入った銃を構えるベリルを横でじっと眺めていた。

 洗練されたその構えは美しく、何者をも凌駕する強さが全体から溢れ出している。

「……」

 ベリルは一度、目を閉じると武器を投げ捨て左耳を手で押さえた。

「早急に撤退」

 出来るだけ遠くに──指示を出しノインに走れと促した。ヘリのある場所は向こうが崖になっているため、元の出入り口まで戻らなければならない。

 駆けながらベリルがぼそりと、

「村の子に頼まれてね」

 愁いを帯びた笑みを浮かべた。

 10年前、ベリルが要請を受けて訪れた国は内戦の真っ直中にあった──あちこちに点在する村の住民たちを救うため、その救出部隊の1人として雇われたベリルの目に飛び込んできた光景に、彼は立ちつくした。

 村人を次々と撃ち殺し、略奪していく一つの部隊……それは、内戦で複数に分裂した組織の一つが雇った傭兵部隊の一隊だった。

「仇……とってね」

 ベリルの腕の中で、命の灯が消えかかる少年が彼につぶやいた最後のひと言──ベリルは、その傭兵たちを決して忘れないように、心に焼き付けた。

 その中にヒューゴがいたのだ。


 ベリルの指示を受け、メイソンたちは急いで撤退を始めた──ベリルの言葉から、かなりの危機的状況なのだと判断した。

「早くしろ!」

 左耳に手を当てて、

「他のグループはどうだ!?」

<基地から100mほど離れた>

「だめだ! もっと離れろ。生きてる敵も一緒に連れてきただろうな!?」

 例え敵でも、見殺しにする事はベリルは好まない。

 メイソンは同じ班の仲間たちに敵を車に詰め込ませ、先に行くように指示をした。

「……っベリル、まだか」

 基地の入り口でベリルを待つメイソンの顔は険しい。


 もうすぐ基地の入り口にさしかかるベリルとノイン──

「走れ!」

「走ってるわよ! あんたとは、体力が違うんだから……ね」

 ベリルは、荒い息を必死に整えながら走るノインの腕を掴む。

「ベリル! ノイン!」

「!」

 業を煮やしたメイソンが車で迎えに来た。2人はそれに転がるようにして乗り込み、基地から全速力で遠ざかる。

「あと2分」

 ベリルは腕時計を見下ろす。

 ジュラルミンケースに入っていた量は解らないが、以前ベリルを撃った時の爆発とは比べものにならないだろう。

 後部座席のノインが振り返った。

「時間だ」

 ベリルが発してしばらくすると、今までに見たこともない爆発が目に入り遅れて爆音が届いた。

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