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黄昏の彼方~碧き蠱惑のミューゼ~  作者: 河野 る宇
◆第11章~決戦
24/27

*その代償

 ベリルは部屋を見渡した──見渡すと言っても、かなり狭苦しい部屋だ。上部の角には監視カメラが右左に設置されている。

 それから、両腕のかせに目を移す。

 枷にかけられている錠は頑丈に見えるが、ちょっとした“こつ”さえ掴めば鍵が無くてもすぐに外せそうだ。

「人間扱いしない」というなら、無茶な拘束の仕方をすれば良いだろうに、などと薄笑いを浮かべた。

「ふむ……アタックポイントにはまだ到着しとらんな」

 ぼそりとつぶやく。

 内部から攻撃を仕掛けて攪乱し、外から本格的な攻撃をかける作戦だが、仲間たちが準備を整える前に逃げては作戦にならない。

 ベリルは仕方なく、このまましばらく待つ事にした。

 人間扱いしてもらえない方が好都合だ、人間扱いされていたらオートロックのドアに苦戦していただろう。

 窓も無く薄暗い部屋だが、外から聞こえてくる兵士の動きと体に伝わる大気で大体の時間は解る。

 そうして時間が過ぎていき──

「!」

 目の前の扉が開かれ、白衣を着た数人が入ってきた。

 血液でも採りに来たのだろう、これで1日が経過した事になる。血液以外に、髪の毛や皮膚も採されて、科学者たちは入った時と同様、無言で立ち去った。

 そろそろ、いいかな?

 ベリルはそれを見送ったあと、ペロリと唇を軽くひと舐めし両腕を器用に動かす。

 すると、カチャリ……と音がしてかせが外れる。解放された手をさすり、伸びをしてドアを開いた。

「ふむ」

 薄汚れた建物内は殺伐としていると言うのだろうか、あまり良い気配は感じられない。むき出しの天井には大小いくつものパイプが張り巡らされていた。

 ベリルは、それを見つめて歩き出す。


 モニタールームで、監視カメラの画像を見ていた兵士2人が驚いてイスから立ち上がる。

「おっ、おい……」

「け、警報を!」

 突然の事にしばらく警報ボタンを押せなかったが、サイレンがけたたましく建物中に響き渡った。

 聞いた全員が見上げ、放送の内容に聞き入る。

<ベリル・レジデントが脱走した。Eブロックを通過──>

「反応が遅いな」

 ベリルはスピーカにつぶやいて、建物の構造を調べながら駆け抜けた。それほど大きくは無いが、複雑な構造をしているようだ。

 侵入者を迷わせるためなのか、脱走者を逃がさないためなのか──とりあえずは、出会う敵をことごとく倒し武器を奪っていく。

 ハンドガン本体は2丁で十分、残りは弾倉だけを奪って軽く解体する。ナイフは趣味に合わないが、数本奪って腰にねじこんだ。

「!」

 走り回っているベリルの目に、気になる扉が映った。重い鉄の扉を静かに開く。

「ほう」

 感歎の声をあげ、積まれた木箱を見渡す。

 そこは弾薬庫らしく、ハンドガンからミサイルまで揃っていた。

「どうしたもんかね」

 発してゆっくりと見回す。

「お?」

 彼の目にとまったものは──それを手に取り、ニヤリと口の端をつり上げた。


 建物を監視していた1人が、慌ただしくなった事に気付く。

「メイソン!」

「始まったみたいだな」

 メイソンは、ヘッドセットを装着している左耳に手を当てた。

「北B班、準備は?」

<OKだ>

「西C班。東D班」

<こっちもOK>

<いつでもいいぜ>

 確認したメイソンは、横にいるノインに頷く。

「決行だ!」

 一斉に立ち上がり、建物に向かって走り出す──メイソンとノインがいるのは南のA班。

 まず北のB班が突入し、1分遅れで西と東のグループが突入。最後にリーダーのメイソンがいるA班が突入する。

『いいか、お前はなるべく殺すな』

 ノインはメイソンに何度も念を押された。

 血を求める心が目覚めてしまったら、彼女を殺さなくてはならない。ノインは、自分の事を思い遣るみんなの心が見えて、なんだか嬉しかった。

アサシンとして生きていた時間──それは孤独だった。そこから救い出され、カレンという親友に出会った。

 胸の奥でうずく殺戮への衝動を、彼女が消し去ってくれた。だから、あたしは戻っちゃだめだ。

 A班には、ベリルが飲み込んだ発信器を映すディスプレイがある。内部構造は解らないが、とりあえずこれでベリルの位置は把握出来る。

 建物内を駆け抜ける彼らの頭の中には、それまでの地図が描かれていた。

 ディスプレイを見ると、ベリルが移動している。近づいたり遠のいたりと、通路が入り組んでいる事が窺えた。

 ベリルからはこちらの動きは解らない、こっちから向かうしかない。

 もう少しでベリルと合流だ──角を曲がった先に、大勢の敵がいてメイソンたちは慌てて戻る。

 マシンガンの銃弾が、ノインたちに浴びせられた。

「チッ、すぐそこにベリルがいるというのに」

「……ねえ」

 ノインはディスプレイを見つめ、

「位置からして、奴らの後ろなんじゃない? ベリル」

「!」

 彼女の言葉に、メイソンがハッとした瞬間──敵の方から呻き声がいくつも聞こえてきた。

 しばらくすると辺りは静まりかえり、メイソンたちはいぶかしげに顔を覗かせる。

「久しいな」

 ベリルがしれっと左手を軽く挙げた。

「! ベリル」

 傭兵たちが口々に駆け寄る。

「これまでの場所にモニタルームは無い」

 ベリルは、これまでの通路の説明をした。

「俺たちが来た場所にもだ」

「参ったな。まだ見取り図が手に入らん」

 ひとまず近くの部屋に入り、頭の中で描いた地図を書き出してみる。

「! 弾薬庫?」

 ベリルが書き示した文字に、メイソンが反応した。

「うむ。かなりの量だった」

「大丈夫なのか?」

「心配ない」

 口の端を吊り上げたベリルのすぐあとに、建物が振動した。

「だろう?」

 ベリルがにこりと笑みを見せる。

「……」

 一同は互いに顔を見合わせた。

「そろそろ誘爆を始める」

 つぶやくと、爆発音と振動が連続して響いてきた。

「時限発火装置もあったのでね。さすが弾薬庫だけに壁は頑丈なようだ、被害はさほど大きくは無いらしい」

 振動と音で解るらしく、みんなはあっけにとられた。

 ベリルに何かしでかしたら100倍にもなって返ってくる、彼を捕えようとする組織は教訓にすべきだ……メイソンは深い溜息を吐き出した。

 警報と爆発音、小刻みに届く振動のなか、一同はモニタルームを探して走り出す。

「ねえ、ベリル」

 ノインは走りながらベリルに問いかけた。

「あたしの元上官はどこにいるんだろう」

 ベリルのハンドガンとナイフ、ヘッドセットを手渡す。

 しばらく走って、それらしき扉を見つけた──ベリルが先に部屋に飛び込み、中にいた敵を一掃する。

 その時、腕と足に4発、銃弾を受けた。

 心配そうに見つめるノインに、大丈夫だとベリルは優しく微笑んだ。

 いくつものディスプレイが設置されていて、他の班も画面に映し出されていた。メイソンたちは建物の見取り図を探し、ベリルは画面をあちこち切り替えている。

「見取り図があったぞ」

 メイソンが、中心に置かれているデスクに見取り図を広げる。

「ある程度制圧したと感じたら建物の外に待機」

「!」

 ベリルの指示に、メイソンたちは怪訝な表情を浮かべた。

「敵はほとんど逃げ出している。周囲を警戒して待機」

 メイソンが他の班に指示を送る。

「お前たちもだ」

「どういうことなんだ?」

「この先は単独で行う」

「!」

 その言葉で、ノインはすぐに気付いた。

 オメガがある場所が解ったんだ──

「行ってくれ」

「無茶はするなよ」

 彼がそう言うのだから、それが正しいのだ……ベリルの指示にメイソンたちが部屋をあとにする。

 残ったノインに右手を差し出す。

 その目を見つめたまま、ノインはオメガの入ったカートリッジが込められたハンドガンを手渡す。

「あたしも行く」

「だろうね」

 小さく笑い、ヘッドセットに声をかける。

「変更だ。私とノインが行く」

<了解>

 代償は払ってもらわねばな……走りながらベリルはつぶやいた。

 その目は今までになく厳しい。この組織がしてきた事に、ベリルは大いに怒りを憶えていた。

 ノインの過去だけでも、ベリルを怒らせるに足る要素を持っている。

 彼女のような人間を、この組織は大勢作ってきたのだ。これが怒らずにいられようか。

「! こっちって……」

 見取り図を頭にたたき込んでいたノインは、向かっている先に眉を寄せた。

「ここに留まる理由は無い」

 ベリルは小さく舌打ちをした。

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