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黄昏の彼方~碧き蠱惑のミューゼ~  作者: 河野 る宇
◆第11章~決戦
23/27

*仲間たち

 ベリルとノインは中東へ飛んだ──小さな村の一角に、ベリルが呼んだ仲間たちが集まっていた。

 簡易のテントが建ち並び、村の人たちはその恩恵を受けている。

 病院の無いこの村で医師免許などを持つ傭兵たちが、せめてもの礼にと村人たちの容態を診ているのだ。

 食料も医療用具も、多めに運んできている。

「……」

 これが傭兵? ノインは、その光景を呆然と眺めていた。

「よう、なに呆けてるんだ」

 後ろから肩を軽く叩かれて振り返ると、細い金髪の男がそこにいた。

「あんたは?」

「ジェフリーだよ。ジェフでいい」

 人が多すぎて把握出来ない。

「みんな親切なんだね」

「場所を提供してくれる礼だよ」

「よう~、この嬢ちゃんがベリルの弟子か?」

 突然、横からガタイの良い男が割り込んできた。2mはあるんじゃないかと思うくらいに大きい。

「え、恋人じゃなくて?」

 長い茶色の髪を後ろで束ねた男がさらに加わる。

「こんな美人、奴には勿体ないぜ」

「お前に言われたかねえな」

「え、え?」

 なんなんだろう、どんどん人が集まってきた……たたみ掛けられる質問や言葉に、ノインは少しめまいを覚えた。

「そのくらいにしてやれ」

 その声に一同が振り返った先には、ミリタリー服に身を包んだベリルが笑みを浮かべていた。

 ノインは、初めて見るベリルの格好に新鮮な気持ちになる。

 今まで想像が付かなくて、考えると違和感しかなかったのに、こうして見るとむしろ似合っている。

 どこかに向かうベリルの背中をノインは追った。

 いくつものテントが立ち並ぶなか一際ひときわ、大きな側面の無いテントに入っていく。ノインもその後に続くと、1人の男に何か話しているようだった。

「これくらいだろう」

「お前、いつもそんなに隠し持ってるのかよ」

「癖でね」

 持ち物について話し合っているようだ。

 いぶかしげに見つめるノインの目に、小さな機械が映る。

「で、これが」

「うむ」

 ベリルはすいと手に取って、ゴクリと飲み込んだ。

「持続時間は」

「一週間くらいだと思う」

「ノイン」

「!」

 ベリルは、横で見ていたノインに“オメガ”の入ったカートリッジが込められたハンドガンを手渡した。

「預けておく。指示があるまで仕舞っておいてくれ」

「解った」

 どうして、あたしに預けておくんだろう。

「ノインとメイソンは車に、物資の補給をする」

 言われて車に乗り込んだノインは、周りの空気が少し重たい気がした。心なしか見送る仲間の目が、ベリルを追っているようにも見える。

 1時間ほど走らせ隣村に到する──ベリルが先に車から降り、村の入り口に向かった。

「ノイン」

「え」

 メイソンがノインを呼び止め、振り返ったノインの耳に鈍った破裂音が聞こえた。

「ぐっ」

 ベリルのうめき声に素早く振り向くと、倒れ込んだベリルを知らない男2人が運ぼうとしていた。

「!? ちょっ! あんたたちっなにしてんのよ!」

 声を上げたノインの足下に、男の1人が威嚇に一発放った。ノインはすかさず近くの車を盾にした。

「メイソン! ベリルが!」

 ハンドガンを手にしてメイソンに目を向けると、彼の表情には妙な落ち着きが見え隠れしていた。

 ノインは立ち上がり、走り去った車の影を見つめる。

「どういうコト?」

 メイソンに声を低くして尋ねた。

「作戦の初期段階だ」

「だから! どういうコトなのよ」

 メイソンの胸ぐらを掴む。

「本拠地は掴んだ。だが、内部が掴めない」

「! ベリルがわざと捕まったってコト?」

 みんなは知ってたんだわ、どうしてあたしには教えてくれなかったの!?

「お前に話せば反対するだろうからと黙ってるよう言われていた」

「当り前でしょ!? あいつらは今までベリルが捕まってきた組織とは違うんだから! きっと酷いコトされるわよ。人間を人間と思ってない奴らなんだからっ!」

いくら死なないからって、痛いんでしょ? 苦しいんでしょ? あたしじゃ、あなたを守れないから?

 ノインは、メイソンの胸ぐらを掴んだままうつむいた。

「奴らを確実に殲滅するためなんだ。すまない」

 メイソンは、彼女の手にそっと手を添えた。

「……いいわよ。あたしが助け出すから」

 苦虫を噛みつぶしたような顔で、声を押し殺してつぶやいた。

「ベリルと合流するまでリーダーは俺だ」

 灰色がかった茶色の髪に青い目、彫りの深い顔立ち。割と男前ではある。

「俺の命令に従って貰う」

「解ってる」

 車に乗り込んだノインは、助手席でぶっきらぼうに応えた。


 連れ去られたベリルは、小さな部屋に運ばれ壁に設置されたかせに両手をつながれる。

「……」

 意識が戻り、痛みに小さく呻く。

 壁には血の跡が至る所に残っており、かつてここが拷問を行う部屋だったと窺える。とても清潔とはいえない空間に充満するのは、乾いた血の臭い。

「……ッ」

 やせこけた男がベリルの髪を乱暴に掴み、自分の目線に頭を上げさせた。

「貴様を人間として扱うと思うな」

 吐き捨てるように発し、威圧的な視線を送る。

「今までの奴らは、貴様を人間として扱ったため失敗した。貴様は実験動物に過ぎない」

 言い放ち、乱暴に頭を突き放す。

 男の後ろにいた白衣を着た数人がベリルに近づき、血液などを採取していく。

 ひと通りの採取を終え、誰もいなくなった部屋でベリルは溜息を吐き出した。


 ベースキャンプに戻ってきたノインたちは、慌ただしく準備を進めた。

「発信器の調子はどうだ」

 メイソンとノインが深緑のテントに入る。そこには、ずらりと電子機器が並べられていた。

「順調だよ」

 1人の青年が応える。

「!」

 発信器……そうか、ベリルが飲み込んでいたのは発信器だったんだ。

 ノインが画面をのぞき込むと、青年が見ているのはどこかの建物のようだった。おそらく、組織の本拠地だろう。

 内部が解らないため、大きなデスクに乗せられている見取り図もおおまかに区切られているだけだ。

「この大きさからして、ここは弾薬庫じゃないか?」

「ここは兵士の施設っぽいな」

 仲間たちが口々に言い合っているのを、ノインは静かに見つけていた。

 あたしはこの組織にいたから何か知ってたら教えたいんだけど、本拠地がどこにあるかすら知らなかった。

 解ってる。あたしは、ただの人殺しの道具でしか無かった。だからこそ、あたしは過去の自分から抜け出すためにも、ここから逃げちゃいけないんだ。

「そういえば、サイスの方はどうなってるの?」

 それにメイソンは、

「あっちはシェリーがリーダーだ。あいつは、あそこで育った奴だからな」

「!」

 あたしと同じ人がいるんだ。

「あの組織は本拠地を移動させているから、厳密に言えば、あそこで育ったとは言えないが組織の内容を熟知しているからな」

 ベリルが『事を起こした』瞬間、サイスへの攻撃を決行するらしい。

 傭兵たちは、ある程度の準備を済ませると撤収作業を始めた。本拠地は今のベースキャンプから遠く離れた場所にある。

 衛星からの画像を見ると、荒れ地にぽつんとサンドカラーの建物が映っていた。

「なかなか上手くカモフラージュしている」

 メイソンが感心して発する。呆れたと言わんばかりの物言いだ。


 撤収作業も終わり、車に乗り込む際にメイソンはノインにあるものを手渡した。

 ヒップホルスターに入れられたハンドガン2丁と、芸術性の高い大小のナイフ2振り。そしてヘッドセットが2つ。

「そのヘッドセット、一つはあんたので一つはベリルのだ。ハンドガンとナイフも、ベリルと合流したら渡してやってくれ」

「解った」

 ノインは、ナイフを鞘から抜いてみた。

 よく手入れされた美しいナイフ──ベリルはサバイバルナイフよりも、こういったナイフを好む。

「道具は使う者次第」

「え?」

 ぼそりと口を開いたメイソンを見やる。

「ベリルがよく言うセリフだよ。『道具に善悪は無い。全ては使う者次第だ』ってね」

「使う人、次第……」

「それは人間にも言えることさ」

 メイソンはウインクしてみせた。

「“自分の力をどう使うかは己次第”ベリルが若い奴によく言ってる言葉だ」

『決めるのは他人ではなく、自分自身だ』

 ベリルの声が聞こえたような気がした。

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