*モロモロの事情
「!」
外れた?
女は、思ったよりも相手の動きが素早い事に感心した。
あのタイミングなら、絶対当ると思ったのに。あなたには恨みは無いけど、これもあたしのためだから……淡々とした表情を見せ、マシンガンを男に向かって撃ち続けた。
弾倉を素早く交換しながら、徐々に近づく。
「まだ子供じゃないのか!?」
キムはテーブルの端から相手を確認した。
「予想では19といった処だな」
ベリルは発しながら、バックサイドホルスターから拳銃を抜きチェックを始める。
「! おい……」
キムはそれに眉を寄せた。
「向こうには殺意がある。威嚇程度の攻撃は許せ」
オートマティック拳銃のチェックを終え、キムを一瞥する。
「ならいいけどよ」
「私が狙いのようだ。お前はドアまで走れ」
「そうさせてもらうよ」
構えたキムは、タイミングを計って駆け出した。
「!」
女はテーブルから出てきた人影に一瞬、反応したが、目的の相手ではない事に気付きそのまま無視した。
仲間を放って逃げたのか? ま、仲間と共倒れなんて、嫌に決まってるものね……冷たく瞳が笑う。
「ふむ。なかなかやる」
弾倉を外し、瞬時に新たなマガジンを装填する女の素早い動作に、ベリルは感心した。
そして、感情が伝わってこない事に目を据わらせる。
「冷蔵庫と戦っている気分だ」
ぼそりとつぶやき、小さく溜息をもらした。
しかし、徹底している──周りの事などお構いなしだ。従業員も客も逃げまどい、右往左往している。
「どうしたものか」
そろそろテーブルも限界だ、このままでは否応なく体に穴が空く。
死にはしないがね……ベリルは薄く笑みを浮かべた。だからといって、理由もわからず撃たれるのは勘弁したい。
ベリルは一気に間合いを詰め、女の懐に入った。
「!?」
速い!?
女は咄嗟にナイフを抜こうとしたが、ベリルに両腕を掴まれる。
しばらく沈黙が辺りを支配した──2人は、互いに相手の心の内を探ろうと見つめ合った。
「私に何の用だ」
ベリルが先に口を開く。
「ちょっとしたアルバイトよ」
女の言葉に、ベリルはあっけにとられた。
「アルバイト……?」
眉間にしわを寄せる。
「お前は人の命をバイトで消すのか」
「大学に行くお金が無くなっちゃって」
普段、あまり感情を見せないベリルが苦い表情を浮かべた。
その隙を突いて女は素早く抜け出し、鋭い眼光を放つ──まだ闘う気だ。