*不死なる者
「!」
ノインはふと、ベリルの右腕に視線を移した。
「腕……大丈夫?」
「さあ、どうかな」
ベリルは苦笑いを浮かべる。
もう血は止まってるけど、どんな風に生えてくるんだろう……ノインは、ドキドキしてその切断面をマジマジと眺めた。
「! ……なに?」
淡い光の粒が、ベリルの切断された腕に集まってくる──その光は腕の形になり、徐々に腕がうっすらと見えてきた。
「うそ」
そこになかった腕が、まるで魔法のように元通りにくっついている。
「内部はまだ不安定だ」
「へえ」
少しずつ動き始める腕をじっと見つめた。
「どうなってるの?」
「空間に漂う分子を細胞などに形成し腕を構築する」
指がぴくりと動いた。
「まず外側を形成し内部を修復していく」
「生えてくるとかじゃないの?」
ベリルはすっかり動くようになった右腕を、左手で確認し立ち上がった。
「それはDNAの発現だ。そういう部分とは逸脱した存在のようでね」
「何もない処から腕が出来るの?」
ノインはあっけにとられた。
「何も無い訳ではない。周囲には多くの分子が漂っている。その分子を組み替えて腕を形成する」
「あ、じゃあ。無からパンを作れるんだ」
「だから無ではないと……」
ベリルは頭を抱えた。
「自分の意思で行っている訳ではない。失った部分が自然に構築されていくだけだ」
「そうなんだ。あ、じゃあ、あの腕は?」
地面に転がっているベリルの腕を指差した。
「あれに不死性は無い」
「え、そうなの?」
「私から切り離された時点で不死の性質は失われる」
「えっ、じゃあ肉片持って帰っても意味無いんじゃないの?」
「全てを持ち帰るつもりだったのだろう。必ず一つは私だからね」
小さい容器に入れておけば、元に戻るのに時間を要する。
「再生するにはある程度のスペースが必要だ」
しかし、その容器の分子構造を組み替えて構築は続けられるため、元に戻るのにいつもより時間がかかるというだけだ。
「だから、ベリルを捕まえても何も見つからないんだ」
ノインのつぶやきに感心する。
「分子の再構築は今の人類には不可能だ」
「それが出来たら、ベリルを捕まえる必要なんて無いじゃない」
「さあ、それはどうかな。一部が欠損した場合の話で不老不死とはまた違う」
発してベリルは、男たちの武器を拾い集めた。
「なんで光ってたの?」
「分子を再構築する際に何らかのエネルギーが発生しているらしい」
「ふーん」
ホントにファンタジーな存在なんだなぁ……ノインは改めてベリルを眺めた。
ああでも、これって科学よね。そう考えると、限りなくリアルなのかな?
「あ、そういえば」
ノインは自分の銃をベリルに突き出す。
「一発目、何を入れたのよ。変な音がしたわよ」
「例の物質を少量にして詰めておいた」
「はぁ!? ちょっ、ちょっと! なんてコトすんのよ」
声を張り上げるノインを意に介さず周囲を見回し、1人残した男に近づき目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「知ってる事を話してもらおう」
視線を泳がせた男に左の人差し指を立てる。
「どうしても聞きたい事が一つある」
ベリルは、あのカートリッジを取り出して男に見せた。
「この物質の名はなんという」
「知りたいコトって……それ?」
ノインはカクンと肩を落とした。
「いつまでも物質Xではな」
肩をすくめる。
「そりゃそうだろうけど」
「……“オメガ”か」
それにベリルが目を丸くした。
「それはまた単純な名を付けたものだ。物質Xと大差ない」
「名前が解ったからいいでしょ」
「!」
男が奥歯を噛みしめた数秒後、ぐったりとして動かなくなった。
「なに? 失血死?」
「いや、毒を飲んだ」
ベリルは、男が死んだのを確認し小さく溜息を吐くと立ち上がりノインに手を出した。
「何よ」
「お前も持っているのだろう」
ギクリ……
「軍にいたとはいえ、それ以前の癖は簡単に抜けるものではない」
さすがベリルだ、見透かされてる。
「ここじゃ無理よ……奥歯にあるもん」
「手を突っ込まれたいか」
それは勘弁してほしい。別に必要無いといえばそうなんだけど、ずっと持ってたものだから、持っていないと不安というか……ノインは、厳しい目で見ているベリルにイタズラっぽく笑んだ。
「手じゃなくて、舌で出したら?」
舌を出して指を差す。
こう言えばさすがのベリルも──と考えた瞬間、頭を両手で固定された。
「! ちょっ!?」
……ウソ。思いっきりキスされてますよ、あたし!
「ンッ……」
ちょっと、やばいんですけど……普通にディープキスだってこれ。ああ、探してる探してる……心地よいキスに、ノインはベリルの腰に腕を回そうとした。
「はっ」
その前に解放され、ノインの口から息が漏れる。どうやら毒を見つけたらしい、乱暴にそれを吐き出すと、ぐいと口元を拭った。
「2度と持つな」
険しい表情で発し、バイクに向かう。
「……」
あんな濃厚なディープキスしといて、言うコトはそれだけですか……ノインは、あまりにものあっけなさに何も言えなかった。
あごで呼ばれ渋々、バイクへと歩き出した。





