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黄昏の彼方~碧き蠱惑のミューゼ~  作者: 河野 る宇
◆第7章~暖かな記憶
16/27

*女心と秋の空

 ノインを寝かしつけたあと、ベリルはリビングで琥珀色の液体を傾けていた。

「……」

 苦い表情を浮かべる──このままでは、ノインを大学に通わせるのは難しいかもしれない。

 護衛ガードを付けて通わせるか。それとも、彼女の腕を信じて自分でなんとかしろと単独で大学に通わせるか。

 それとも──

「大学に行かなくてもいいよ」

「!」

 ノインは応えて、ゆっくりベリルに近づく。

「一度しようと思った事を途中で投げ出すのかね」

「そう言われると弱いけど……」

「ふむ」

 ベリルはブランデーを味わうと、

「荒療治も良いかもしれんな」

 ぼそりとつぶやいた。

「え?」


 朝──

「えええええっ!? 一緒に大学に行くですってぇ!?」

 ノインは、素っ頓狂な声を上げてベリルを凝視した。

「そちらは生徒、私は先生」

 おたまで示す。

「ばっ、馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!」

「情報が得られないのだ、仕方なかろう」

 しれっと発したベリルに、

「仕方がないからって、なんであんたまで大学に行くのよ!」

 キッチンテーブルをバンバン平手で叩きまくる。

「ガードを付けるよりは良かろう」

「そういう問題じゃないわよ!」

 あんたが来たら絶対、女子大生が騒ぐに決まってんだから! “25歳”で先生よ? さらに騒がれるじゃないっ!

「?」

 ベリルは、どうにも複雑な表情で黙り込んでいるノインに首をかしげた。そんなベリルに苛立ったノインは、言い聞かせるようにゆっくり口を開く。

「いい? 狙われてるのはあんたなのよ。あの『物質X』を使われないとも限らないんだから」

「そんな危険を冒す訳がなかろう」

「ほ、他の組織が狙うかもしれないじゃない!」

「ならば“表”にいた方が安全だ」

 くっ、だめだ……あたしなんかの頭ではベリルに勝てない。

「住処は大学の近くだ、丁度良い」

 それにノインはピクリと反応した。

「ちょっと待って! もしかして、あたしもそこに住むの?」

「家賃が浮いて良いだろう」

「だめっ! 絶対ダメ!」

 周りに知れたら同棲してると思われる。ていうか、あんた絶対、自分がモテるコトに気付いてない。

 あんたに出来る取り巻きに逆恨みされたか無いわよ。

 それよりも何よりも、ベリルがモテるのが本当はイヤ……ああっ! あたし、なにオトメしてんのよ!

「大丈夫かね」

 1人で頭を抱えて唸っているノインを心配そうに見つめた。

「大丈夫よ!」

 誰のせいだと思ってんのよ! ノインはギロリとベリルを睨み付けた。

「ならば、近くでマンションかアパートを借りてやろう」

「それならいいけど……ってちょっと待てぇい! 根本的に反対だって言ってんでしょ!」

「何がだめだと言うのだ」

 ベリルが困惑気味に問いかけた。

「うう……」

 言える訳無いじゃない、そんな恥ずかしいコト。ああもうっ! ちょっとくらいナルシストでもいいんじゃないの!? 自覚無い訳じゃないわよね!?

「ベリルのばか!」

「へ?」

 叫びながら自分の部屋に駆けていった。

「あ、おい、朝飯は……」


 結局、ベリルを説得出来なかった──

「……」

 ノインは、朝に作られた料理を昼食としてキッチンテーブルで食べながら電話中のベリルを見つめる。

 電話で大学の講師になる手続きをしているようだ。そのやり取りを眺めつつ、呆れたように溜息を吐いた。

 しかし、一体どうやって『表の世界』に入る気だ? あんた、戸籍とか出生証明書とかも無いでしょ。

「!」

 そうか、偽造する気だな。

「さてと」

 電話での手続きを終えたベリルは通話を切り、日本に行く準備を始めた。

「なんか“箔の付く”ようなモノあるの?」

「MITの卒業証書くらいなら」

「はあ!?」

 ノインはそれに目を丸くした。

 MITってマサチューセッツ工科大学ですか? あんた傭兵でしょ、どこまでぶっ飛んだ頭してんのよ。

「論文とかも提出したの?」

「いくつかね。卒業試験を受けたのは17歳の時だが、聞きたいかね」

「いい、遠慮しとく」

「む……」

「どしたの?」

「住処は使えんな。私もどこかに部屋を借りる必要があるのか」

 表札の名前は別人だ、何かの拍子に誰かが訪れて来るかもしれない。

「金持ちなんだから別にいいじゃん」

「金銭の問題ではない」

「じゃあ、止めれば?」

「先にお前を卒業させた方が動きやすい」

「あのね……卒業には4年かかるのよ。相手が4年も待ってくれると思ってるの?」

「動きがあれば休学すればよい」

 臨機応変に対応しろってか。

「てか、あんた単位とかとれたの?」

「特別院生扱いだったが」

 つまり、かなり優遇されていたってコトか。

「大学にはどれくらい通ってたの?」

「一週間ほどか」

「! い゛っ!?」

 ベリルは昔を思い出しながら、

「表に出た時のために、一応は何か持っておけと師が言うものでね。出来るだけ短期間で証書がもらえる大学を探した」

「へ、へえ~」

 普通あり得ないんですけど、絶対あんたは特別だって……しかしふと、ベリルの言葉に気付く。

「! 師って?」

「ん。15の時に出会った傭兵がね」

「へえ……」

 子供の時から兵士だった訳じゃないんだ。でも、どうして傭兵なんかになったんだろう。言葉遣いとかからして、お金持ちの家にいたっぽいのに……と、怪訝な表情で見つめるノインを一瞥する。

「気になるかね」

「うん」

 教えてくれるのかと身を乗り出した。

「教えてやらん」

「! ケチッ!」

 ベリルは喉の奥から笑った。

 そして付け加えるように、

「お前が考えているような生まれではないよ。いや、ある意味そうか」

「どっちよ」

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