*弟子
ノインは、ハンドガンの手入れをしているベリルを見つめる──ずっと狙われ続けてきたハズなのに、どうして人を憎まないんだろう? と不思議でならなかった。
「!」
何かに気付いたベリルが、ジーンズのバックポケットから携帯端末を取り出す。マナーモードにしてある携帯は、着信を震える事だけで知らせていた。
「──そうか、頼む」
それだけ発すると、通話を切って再びハンドガンの手入れを続ける。
「……」
なんだか気まずい。こんな風に、他人と一緒にいたコトが無いから……もう寝ちゃおうかな。でも、さっき寝たばっかりで眠くないし。
ベリルをチラチラ見やった。
「ノイン」
「なにっ?」
思わず声を張り上げたノインに、ベリルはやや驚いた表情を浮かべた。
「お前のハンドガンを貸せ」
「何する気よ」
いぶかしげな瞳を向けるノインに無表情で応える。
「渡された方だ」
「! ああ」
バッグからその特殊な形状をしたハンドガンをベリルに手渡す。
「ふむ……」
それをマジマジと眺めた。
「反動はどうだ」
「あたしが使ってるのよりは強かった」
「ほう」
反動を上手く逃がしているのか。
入っているカートリッジを抜き取り、何も無い状態で構えて照準に目を細める。引鉄を引くと、ガチャン……という軽い音を立てた。
「まだ試作品だな」
「そうなの?」
ノインの問いかけにハンドガンをいじりながら、
「どのみち爆発してしまえば撃った人間ごと消えてしまう。今はこれで十分だと判断したのだろう」
「へえ」
ますます腹が立ってくる……ノインは、ピキピキと血管を浮き上がらせた。
「処で」
そんなノインに向き直ると、
「私の元で傭兵としてのノウハウを学ぶ事になる訳だが」
「何よ」
「今までの自分の知識や経験をひけらかすような事は慎め」
ノインは眉をひそめる。
「どういう意味?」
「余計な講義や意見など必要無い。傭兵には傭兵のやり方がある。お前がやってきた事とは異なる場合が多い」
「ああ、そんなコト。了解したわ」
軽く応えると、ノインも自分のハンドガンの手入れを始めた。そんなノインに、ベリルは溜息を漏らす。
口で言うのとは違う。彼女は完全には理解していないだろう。ベリルにとって、ノインは敵に相当する。もちろん、軍に入る前の彼女の事だ。
ベリルは人を救う側の人間──一方ノインは、人を殺す側の人間だった。
ノインが組織にいた時に出会っていたなら、ベリルは躊躇無く彼女を殺していたかもしれない。
一時は軍にいたとはいえ、幼い頃に染みついた殺しの技術と快感は、そう簡単に抜けるモノじゃない。
ベリルはエメラルドの瞳を曇らせた。
朝──ノインが目を覚ますとベリルが帰り支度をしていた。
「どっかに行くの?」
「住処に戻る」
発して、ノインに着替えるように示した。
組織を攻撃算段も立てなければならない。ノインがベリルの弟子という形になったため、住処に戻る事にしたのだ。
昨日、買った服に袖を通したノインは、ベリルと部屋をあとにする。
ホテルを出て、オレンジレッドのピックアップトラックが視界に入り、爆発したあとの事をふと思い起こす。
そういえば……あたしの乗ってきた車はあの廃墟に置いてきたんだけど。乗ろうとしたらベリルに止められたんだ。
「追跡装置の付いている車など捨ててしまえ」
薄笑いで言われた。
その言葉で、ようやく追跡者がいなかった理由が解った。そうよね、与えられたカートリッジの中身を知らないんだもの、簡単に撃って死ぬだけ。
追跡してて巻き込まれたら大変だもんね。
ヤバイ、また腹が立ってきた。
「わあっ!?」
目の前でベリルに指を鳴らされ、びっくりして声を上げた。
「何をしている」
「ご、ごめん」
びっくりした……ドキドキしながら助手席に腰を落とす。ゆったりとした大型のピックアップトラックの車内は、ノインなら1シートで2人は座れそうなほどだ。
しばらく車を走らせ、たどり着いた場所は住宅街から少し離れていた。
割と大きめの家よね……ノインは、一戸建てのシンプルなデザインの家を眺めた。そして、表札の名前が違う事に気がつく。
隠れ家みたいなもんだから偽名かな?
などと考えながら、視界は家を探る──普通の家に見えていたが、解る人間には解るほどの造りに目を丸くする。
「はあ~……」
ぱっと見わかんないけど、素材は凄いんじゃないの? この家……コンコン、と軽く壁を叩く。
玄関の鍵も指紋認証だった。
「留守が多いのでね」
防災と防犯を兼ねている……とベリルが笑みを見せる。
荷物を持ったまま奥に進むベリルを、いぶかしげに追う。リビングの入り口を通りすぎ、2階へ続く階段も通りすぎて、突き当たりの部屋のドアを開くと物置のようだった。
そして部屋の中心で立ち止まり、コン……と、右足のかかとで床を軽くこづく。
「!」
床に隙間が出来て、下に続く階段が現れた。
「隠しておかんとな」
肩をすくめて、階段を下りる。
「わあ……」
ノインは、その部屋に感歎の声をあげた。
綺麗に並べられた武器類に目を輝かせる。普通の女性なら、そんな声は高いアクセサリーなどに向けるものだ。
「細工部屋に試射室まである!」
「後でお前の指紋も登録しておく」
苦笑いを浮かべて発した。





