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黄昏の彼方~碧き蠱惑のミューゼ~  作者: 河野 る宇
◆第5章~道しるべ
12/27

*戦いと報酬

 ちぇ、あんなトコで出てくるなんてタイミング悪い……ノインは、ふてくされてリビングに戻りテレビを付けた。

 普通の女性なら、裸の男に何かしらの反応を示すのかもしれない。しかし、ノインにとっては裸の男なんて見慣れている。

 戦場で、相手が女だからと気を遣う奴らなんて、いやしなかったのだ。

 そう考えると、あたしってすでに女捨ててるような気がしてきたわ……ノインはガックリと肩を落とした。

 女を意識するのは、仲間たちがあたしを口説くか襲おうとした時だけだった──恋愛なんかに興味は無かったし、格闘術を心得ているし常に武器を持ってたから、襲われても負けたコトはなかった。

 あたしはベリルに勝てるのかな?

 闘ってみたい衝動がむくりと起き上がり、すぐに頭を振って引っ込めた。


 シャワーを終え着替えを済ませたベリルは、キッチンで夜食の準備を始める。要は酒のつまみだ。

 そうして、ブランデーとスモークチーズやスライスサラミを乗せた皿を手にし、リビングに戻ってくる。

 上品にソファに腰掛けたベリルを、ノインがジッと見つめた。

『生きるのがヘタクソ』

 あれはどういう意味なんだろう。聞きたいけど、誤魔化されそうなんだよね。

「何かね」

「別に」

 そっぽを向いたノインに、クスッと笑みをこぼした。

 ブランデーをひと口含み足を組む。

「その衝動の切り替え方を考えた事は」

 その言葉に驚いて、ベリルを凝視した。

「切り替え方?」

「傭兵仲間の中には、お前のように人を殺める衝動を持つ者も少なからず存在する。だが、彼らは私と同じように普通の生活をしている」

「どうやって?」

 そんなコト、できっこない。甘い誘惑に勝てるなんて──

 ノインの目に、ベリルは宙を見つめて、

「まったく違う生活をする必要など無い。その衝動を“別の何か”に置き換えれば良いだけだ」

「別の、何か?」

「普通の生活をしようとするから無理が生じる」

 言われてみればそうかもしれない。普通の生活の中に、あたしは常に刺激を求めてた。

 そして、いつもイライラ。そか、悪い方じゃなくて善い方に使えばいいんだ……ノインは初めて気が付いた。

「時間は要するかもしれん。出来ない事ではないだろう」

「うん……今まで考えてたコトよりも難しくない気がする」

「お前にとっては、衝動を和らげる事が一つの報酬だ」

「!」

 なるほど。お金も貰えて、戦いも出来る。いいじゃん、それ……なんで今まで気が付かなかったんだろ。

「ハッ!?」

 だから“生きるのがヘタクソ”って……ようやく理解したノインがベリルを見やると、彼はニヤリと口の端をつり上げた。

 今まで必死に葛藤してきた自分がバカらしく思えてくる。

「ええ、ええ。あたしはヘタクソですよ」

 ぶすっと頬を膨らませ、グラスのジンジャーエールを一気に飲み干した。

「大学に行くかね」

「え、うーん」

 問題は解決したんだから、大学に行っても大丈夫よね。

「──って違う違う。カレンの仇を討ってないし」

「それは私がやればよかろう。お前は大学を卒業せねば」

「休学届け出したんだから、しばらくはいけるでしょ」

 決意の視線に薄笑いを浮かべて溜息を吐き出す。

「そう言うだろうとは思っていたがね」

「あたしを遠ざけようとした理由は?」

 ベリルは観念したように話し出す。

「例の物質は覚えているか」

「ああ、物質Xね」

 確認し、ブランデーを口に含んで続ける。

「彼らが名付けた名前を知らないのでね、今はそう仮で名付けている。あれはまだ不安定で危険なモノだ」

「!」

 だから、あたしを遠ざけようとしたのか。

「どうやって見つけたのか、反物質に似た性質を持つのにそれよりも扱いは容易い。あの物質の発見はあまり喜ばしいものではない」

「相手が相手なだけに?」

「それもある。人が持つにはまだ早い」

 まるで神様のような物言いに、ノインは怪訝な表情を浮かべた。

 でもまあ確かに、あんな爆発力のあるモノを人類は持っちゃいけない気がする……ノインは考えて、あの時の爆発を思い起こした。

 いくら老朽化していた廃墟とはいえ、あの爆発はとんでもなかった。

 ハンドガンのカートリッジサイズで廃墟の3分の1が消失したのだ。よくあれで生きてたと、自分の体を改めて確認した。

 もちろん、ベリルが自分の体を盾にしてくれたからだけど……ベリルはベリルで、ノインを抱き寄せたあとに、近くにあった鉄製の頑丈な扉を盾にした。

 その鉄の扉も、綺麗サッパリ無くなってたけどね。

 そんなモノを持っている相手と戦わなければならないのだ、ノインはちょっとだけ怖くなった。

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