*戦いと報酬
ちぇ、あんなトコで出てくるなんてタイミング悪い……ノインは、ふてくされてリビングに戻りテレビを付けた。
普通の女性なら、裸の男に何かしらの反応を示すのかもしれない。しかし、ノインにとっては裸の男なんて見慣れている。
戦場で、相手が女だからと気を遣う奴らなんて、いやしなかったのだ。
そう考えると、あたしってすでに女捨ててるような気がしてきたわ……ノインはガックリと肩を落とした。
女を意識するのは、仲間たちがあたしを口説くか襲おうとした時だけだった──恋愛なんかに興味は無かったし、格闘術を心得ているし常に武器を持ってたから、襲われても負けたコトはなかった。
あたしはベリルに勝てるのかな?
闘ってみたい衝動がむくりと起き上がり、すぐに頭を振って引っ込めた。
シャワーを終え着替えを済ませたベリルは、キッチンで夜食の準備を始める。要は酒のつまみだ。
そうして、ブランデーとスモークチーズやスライスサラミを乗せた皿を手にし、リビングに戻ってくる。
上品にソファに腰掛けたベリルを、ノインがジッと見つめた。
『生きるのがヘタクソ』
あれはどういう意味なんだろう。聞きたいけど、誤魔化されそうなんだよね。
「何かね」
「別に」
そっぽを向いたノインに、クスッと笑みをこぼした。
ブランデーをひと口含み足を組む。
「その衝動の切り替え方を考えた事は」
その言葉に驚いて、ベリルを凝視した。
「切り替え方?」
「傭兵仲間の中には、お前のように人を殺める衝動を持つ者も少なからず存在する。だが、彼らは私と同じように普通の生活をしている」
「どうやって?」
そんなコト、できっこない。甘い誘惑に勝てるなんて──
ノインの目に、ベリルは宙を見つめて、
「まったく違う生活をする必要など無い。その衝動を“別の何か”に置き換えれば良いだけだ」
「別の、何か?」
「普通の生活をしようとするから無理が生じる」
言われてみればそうかもしれない。普通の生活の中に、あたしは常に刺激を求めてた。
そして、いつもイライラ。そか、悪い方じゃなくて善い方に使えばいいんだ……ノインは初めて気が付いた。
「時間は要するかもしれん。出来ない事ではないだろう」
「うん……今まで考えてたコトよりも難しくない気がする」
「お前にとっては、衝動を和らげる事が一つの報酬だ」
「!」
なるほど。お金も貰えて、戦いも出来る。いいじゃん、それ……なんで今まで気が付かなかったんだろ。
「ハッ!?」
だから“生きるのがヘタクソ”って……ようやく理解したノインがベリルを見やると、彼はニヤリと口の端をつり上げた。
今まで必死に葛藤してきた自分がバカらしく思えてくる。
「ええ、ええ。あたしはヘタクソですよ」
ぶすっと頬を膨らませ、グラスのジンジャーエールを一気に飲み干した。
「大学に行くかね」
「え、うーん」
問題は解決したんだから、大学に行っても大丈夫よね。
「──って違う違う。カレンの仇を討ってないし」
「それは私がやればよかろう。お前は大学を卒業せねば」
「休学届け出したんだから、しばらくはいけるでしょ」
決意の視線に薄笑いを浮かべて溜息を吐き出す。
「そう言うだろうとは思っていたがね」
「あたしを遠ざけようとした理由は?」
ベリルは観念したように話し出す。
「例の物質は覚えているか」
「ああ、物質Xね」
確認し、ブランデーを口に含んで続ける。
「彼らが名付けた名前を知らないのでね、今はそう仮で名付けている。あれはまだ不安定で危険なモノだ」
「!」
だから、あたしを遠ざけようとしたのか。
「どうやって見つけたのか、反物質に似た性質を持つのにそれよりも扱いは容易い。あの物質の発見はあまり喜ばしいものではない」
「相手が相手なだけに?」
「それもある。人が持つにはまだ早い」
まるで神様のような物言いに、ノインは怪訝な表情を浮かべた。
でもまあ確かに、あんな爆発力のあるモノを人類は持っちゃいけない気がする……ノインは考えて、あの時の爆発を思い起こした。
いくら老朽化していた廃墟とはいえ、あの爆発はとんでもなかった。
ハンドガンのカートリッジサイズで廃墟の3分の1が消失したのだ。よくあれで生きてたと、自分の体を改めて確認した。
もちろん、ベリルが自分の体を盾にしてくれたからだけど……ベリルはベリルで、ノインを抱き寄せたあとに、近くにあった鉄製の頑丈な扉を盾にした。
その鉄の扉も、綺麗サッパリ無くなってたけどね。
そんなモノを持っている相手と戦わなければならないのだ、ノインはちょっとだけ怖くなった。





