*休暇
イタリアの、とある田舎町──ベリル・レジデントは、お気に入りのブランデーを傾けていた。
金髪のショートヘア、エメラルド色の瞳。25歳ほどの外見の男は、小さな酒場で琥珀色の液体を味わう。
フリーの傭兵である彼は、大きな仕事を終え一週間ほどの休暇を取ろうと、このイタリアに足を伸ばした。
時折、知り合いの傭兵仲間が挨拶に訪れる。若い傭兵たちも、彼には畏敬の念を持って声をかけた。
それもそのはず、彼は見た目通りの年ではない。
“不老不死”という、いささか信じがたい存在なのだ──25歳の時に不死になったため、見た目が25歳な訳である。
不死になる前から、彼はこの世界では名の知れた者だった。
『素晴らしき傭兵』
敬意を持って呼ばれ、今でもそれは変わらない。
他にもいくつか勝手に付けられた名はあるが、どれも彼には気に入らなかった。通り名とは、そういうものなのかもしれない。
イタリアの酒場──バール──は、暖かな間接照明と品の良い音楽が流され、客はそれぞれの酒を楽しんでいた。
「よう。ベリル」
テーブルでのんびりグラスを傾けていたベリルに、傭兵仲間のキムが声をかけ彼はそれに、軽く手を挙げて応えた。
「プハーッ美味い!」
スコッチを一気に飲み干し、キムは満足げに口の端を吊り上げた。
「休暇だって?」
「うむ。大きな仕事だったのでね、ここいらで少し休みたい」
それにキムは笑って、
「引っ張りだこのお前さんが、そんなに休んでいいのかね」
「少しくらい見逃せよ」
発して、同じように笑みを返す。
「相変わらず歩き回ってんのか」
言いつつ、キムが新たなスコッチを注文しようとしたそのとき──
「!」
ベリルは、店に入ってきた女に目を移した。
自然とそういう習慣がついている彼にとっては当り前の事だが、入ってきた女性の雰囲気に眉をひそめた。
あの動きは一般の人間ではないな……と目を細める。
美しい金髪は緩やかなウェーブを描き、その瞳はオレンジとも黄色ともとれる、不思議な色合いだ。
まだ若いその女性は、誰かを捜しているように店の中をキョロキョロと忙しなく目を動かしていた。
「!」
ふと目があった──
「うおっ!?」
ベリルはキムの首根っこを勢いよく掴むと、テーブルを転がし隠れるようにしゃがみ込んだ。
途端に、ベリルめがけて銃弾が浴びせられた。
「なっ!? なんなんだよ!?」
「それは私も知りたい処だ」
口の端をつり上げる。
目があった瞬間に彼女から放たれた殺意は、ベリルを素早く反応させた。