僕が確かに唄えること
かなり久しぶりに書きました。
海を眺めていてふと思いついたものです。
最後まで読んでいただけれは嬉しいです。
風が吹く。
肌にあたって微かな抵抗を見せる。
深い青の海を目の前に精一杯声を張り上げる人。
目を閉じ、体全身で音を紡いでゆく。
長い漆黒の髪が潮風に煽られ、なびく。
綺麗だった・・・。
あの日、僕だけの入り江に侵入してきた彼女。
決して誰も入れまいと思っていたその小さな小さな入り江に彼女の存在は僕よりも確かに・・・。
相応しかった。
小さな入り江に・・・木々の緑と海の蒼の中に・・・黄色い砂の上に・・・。
彼女の存在は確かに相応しいと感じた。
焼けるような憧れと、自分までもが驚くほどの深い憎しみを覚えた。
彼女の存在が痛かった。
彼女の存在が眩しかった。
彼女の声が苦しかった。
彼女の声が好きだった。
彼女は・・・。
喉を締め付ける・・・熱い痛みが彼女を見るたび僕を襲う。
容赦なく痛みは増していく。
彼女は僕に気付かない。
当たり前だ・・・。
隠れているのだから・・・。
気付いて欲しくないと望んだのだから。
いつまでも彼女の姿を見ていたかった。
彼女の声を聞いていたかった。
そのためなら僕はいつまでも隠れていられるだろう。
喉を・・・体中を焼く痛みに変えてでも。
それでも・・・
僕は彼女に気付いて欲しかったんだと思う。
僕のこの痛みを知って欲しいと。
彼女の存在が僕を消してしまうかもしれない。
彼女は僕にとっては毒だ。
眩しすぎて・・・。
痛みが増すから・・・。
だから今はせめて彼女のいない・・・彼女の居るべき、この場所で彼女への思いを唄わせて。
耳を傾けてくれるのは答えてくれはしない輝く星空だけでいい。
吸い込まれるような、輝く星空だけで・・・。
僕の唄は輝く太陽の下で歌い上げられるほど綺麗なものじゃないから。
せめて誰も居ない、この静かな場所で。
こんな僕にも確かに唄える想いががあるってこと。
ただそれだけは・・・
何よりも確かだから。
今日も彼女は唄う。
漆黒の髪を靡かせて。
ただ、今日から彼女は輝く星空の下で唄うことにしたみたいだ。
僕の痛みはやっぱり消えることはなかったけど・・・
君の瞳に僕が映ることが痛いくらい幸せだよ。
僕らの歌声は星達だけが知っている。
最後まで読んでいただき、有難うごさいます。
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