プロローグ
27歳で負けるらしい。
何をやっても無駄らしい。
……だから僕は、目の前男を全力でぶん殴った。
「僕は勇者だぞ!?追い剥ぎごときに負けるとでもッ!?」
一時は世界を救うという使命を背負っていた。
魔王を倒すと意気込み、死に物狂いで努力した。
しかし予言は外れない。
これまで一度も。
「こっちは十人いる。しかもお前は27歳で死ぬんだろ?落ちこぼれの勇者に負けるわけねぇだろうが。さっさと高級装備を渡しやがれ!」
落ちこぼれ…?
この僕が…?
「…今の、取り消せよ」
「あん?傷ついちまったのかぁ?」
嘲笑が湧きあがった。
「路地裏で包囲したぐらいで勝った気になるなよ」
「へっ。寝言は寝ていe…」
こいつの名前は知らない。
仮に赤髪の男と呼ぶことにしよう。
……奴の首が飛んだ。
最後まで言い終わる前に。
真空の剣で切られたかのようだ。
激しい血しぶき、そして周囲に動揺が走った。
「何が起こった!?何が起こったぁッ!?」
「うるさい」
発狂している眼帯の男との距離はそれほど遠くはない。
しかし間にはダガー使いがいる。
騒ぎはまずい、衛兵が来てしまう。
迅速に、そして目立たず片付ける。
「落ち着け!此奴も所詮は人間だ!」
ダガー使いは腰の鞘からダガーを取り出し、僕に突撃してきた。
こまめに手入れされているのか、切れ味もよさそうである。
「目線で狙いがまるわかりだ」
約1.3234秒後、ダガー使いの構えたナイフは僕の脇腹、正確には大動脈に到来するだろう。
僕は姿勢を低くした。
刃先は頭部を捉えた。
しかし僕のほうが速い。
片手を内側から回し、ダガーを持っている利き手の手首を鷲掴みにする。
手首をひねり、ダガー使いの肘関節を伸ばした。
良い位置だ。
丁度僕の膝蹴りが入る位置。
「ぐあぁぁぁッ!?」
一瞬にしてダガー使いの腕は使い物にならなくなった。ついでに顔面パンチをお見舞いした。
僕の強烈な右フックによりダガー使いは地面に伸びてしまっている。
この様子では武器をうまく扱うことなどできないだろう。
「なんで僕が落ちこぼれなんだ?…どうして僕だけ?他の勇者はみんなちやほやされてるのに…」
激痛に見舞われたダガー使いはナイフを手放してしまう。
戦闘中に武器を手放すとは愚かなことだ。
すなわちそれは敗北を意味する。
空中に放たれた安物のダガー。
僕は刀身に蹴りを入れた。
力を加えられたダガーは忽ち加速し、恐怖の表情を浮かべている眼帯の男の脳天めがけて正確に突き刺さる。
さぁあと七人だ。
「27歳で魔王に殺されるって予言された!王国からも見捨てられたッ!今のところ予言も全部当たってる!あまりにも酷すぎるッ…」
「気味が悪ぃことブツブツ呟きやがってッ!あんまり俺たちを舐めるんじゃねぞッ!」
今度は白髭の男とドレッドヘア、ついでにスキンヘッドがしゃしゃり出てきた。
それぞれナイフを持っている。
個々では敵わないことはわかりきっているのだろう。
三人同時に、連携を取って襲ってきた。
武士道精神など糞くらえ。
僕はもう勇者ではないのだ。
正々堂々と戦うわけない。
迫ってくる盗賊めがけてダガー使いを背負い投げする。
ダガー使いが空中に浮いた瞬間を狙い、僕は追加でドロップキックを食らわせ死体を更に加速させる。
白髪の男とスキンヘッドには当たったがドレッドヘアはひらりとかわしやがった。
しかし、こんなタンパク質の塊ごときで戦闘不能にできるとは思ってない。
僕の狙いは後方で眼帯の男に突き刺さっているダガーだ。
「クソがッ。バカみたいな運動神経しやがってッ!おいお前ら一旦態勢を整えるぞッ!」
「遅いッ!」
僕は先ほど眼帯の男の亡骸に空中でドロップキックを食らわせた。
作用反作用という言葉は知っているだろうか?
僕は反対方向へと押し出され、眼帯の男に突き刺さったダガーとの距離は数メートルにも満たなかった。
「しねぇぇぇッ!」
ドレッドヘアの凶刃が僕に迫る。
しかし、僕の刃捌きのほうが何倍も狂っている。
澄んだ金属の衝突音が路地裏内に木霊する。
迫りくるドレッドヘアの刃先を寸分狂わず受け止めるダガーの先端。
突きによって伝わる力は絶大である。
当然、ドレッドヘアは大きくのけぞり、僕にとっては十分すぎるほどの隙ができる。
流れるような動きでドレッドヘアの首を一突き。
「これ貰うね」
ドレッドヘアは死んだ。
つまり奴が持っているナイフは僕のものだ。
存分に有効活用するとしよう。
「くそッ。化け物がッ…!!」
「ひ、ヒィッッ!?」
後方でおびえている茶髪の男と無精ひげの男。
彼らは腰を抜かしており、今にも逃げ出しそうな雰囲気であった。
助けを呼ばれるのは僕にとって不都合。
ならば先に始末しておきたいのだが…。
「君たち邪魔なんだけど」
「俺たちのことは構うなッ!早く逃げろッ!奴は人間じゃねぇッ!精神もイカれてやがる」
「うわぁぁぁぁあぁッ!!!た、助けてくれッ!!!誰がッ!」
おお。仲間思いの盗賊とは珍しい。
自分を犠牲にして仲間を逃すとは。
これではまるで僕が悪役のようではないか。
「君たちが最初に襲ってきたんだろ。今更逃げるとか卑怯じゃないのか?」
「うるせぇッ!あいにくだが俺たちはこの中で一番強いんだ。素直に通れるとは思うなよ?」
なるほど。僕をここで始末するつもりなのか。
忌々しい占いのせいで僕は勇者をリストラされた。
今や路地裏で盗賊に狙われるほど墜ちてしまった。
奴らは僕のコンプレックスを笑いやがったのだ。
誰一人として逃がすわけがない。
僕は壁に向かって走った。
「は、速ッ!?な、なにをする…」
壁に対して垂直にナイフを突き立てる。
深々と突き刺さったナイフにより、安定した足場が出来上がった。
僕はその上に飛び乗った。
ここなら狙いやすい。
壁となる人間もいない。
「死ね」
僕はダガーを投擲した。
先頭に立って一目散に逃げようとする無精ひげの男の脳天目掛けて。
結果は予想通りだった。
正確に脳天を貫き、無精ひげの男は倒れる。
「お、おい!うぁッ!?」
その後ろを走る茶髪は無精ひげの男の亡骸に躓く。
僕にとっては十分すぎる隙。
壁からダガーを引き抜いた僕は、数秒の間、空中に位置している。
落下する速度を考慮すれば大体この辺りか…?
「おぉビンゴ!」
茶髪の脳天にダガーが突き刺さっていた。
「く、クソ…。こいつ狂ってる…」
今更逃げようとしたってもう遅い。
いや。僕の強さを見抜けず、油断した時点でこの盗賊たちが負けることは確定していたのだ。
こんなところで負けるわけないし、死ぬわけにもいかない。
──27で死ぬ?
──魔王に殺される?
ふざけるな。ならばその前に…。
拳を握る。
血が、掌に張り付いていた。
「絶対に探さないと…俺の人生を勝手に決めた奴を」
予言者。
そいつを見つけ出すまで、僕は死ねない。
路地裏は恐ろしいほど静寂になっていた。




