敗けが確定している戦い
「あーあ、イベントはレアもんとれんのがなぁ…」
「さっきからイベントイベントって……」
なんの事かはよくわからないけれど、なんとなーくもう少し言葉はないのか……。
「他に言葉知らんねんからしゃーないやろ~」
そんなやりとりをしている二人をカーバンクルはじっと見つめる。
そしてアリアのクリスタルに入る直前、少しだけ不思議そうに小首を傾げた。
もちろん、二人がそれに気付く事はなかった。
「カーバンクルが、まだ怯えてる…」
アリアがそう言った瞬間だった。
「あー、あかんわ」
「え??」
突如目の前に表示された、“ここから先は物語が大きく進みます。それでも前へ進みますか?”の文字。
「このゲーム、これはメチャ親切な設定やと思う」
「え?どういう??」
「早い話、第一章終了のボスバトルやろな。さーてと。あとはどっちや」
え?今のがボスバトルではない?どういう事??
「進んで良い、んだよね?」
どっち、という二択の不安は一瞬過ったけれど…。
【前へ進みます】のボタンを押した瞬間、もう慣れたが突如流れるアニメーションムービー。
[居たぞー!!例の一行だ~!!!]
森の中から数十人、それ以上の兵士がシゲ達を取り囲んで行く。
[もう逃げられないぞ!!!]
[一点突破してなんとか逃げきる!!]
ムービーでシゲが数人を叩き伏せ、凍慈の弓が放たれた瞬間、稲光が少し離れた場所へズドンと落ちる。
全員の視線が自然とそこへと向き、直後に兵士から大歓声が巻き起こった。
地面に刺さった槍の上に立つ金・白・黒を用いた、他の兵士とは全く異なるデザインの鎧を身に纏った青年。
[彼等がそうか]
肩まである艶やかな金髪。キラキラと硝子水晶のような透き通る美しい碧眼。左耳には透明度の高い両剣水晶が煌めく。
そして俺でも聞いた事のある声(おそらく人気の声優だろう)が場を支配する。
容姿端麗のその男は槍から地面に降り、何か思いふけりながらシゲ達を見つめる。
ハッキリ言える事があるとすれば、彼だけ全てにおいて気合いの入ったキャラだという事。
[我はジェダ・ハンネ・アウゼンハイド]
[アウゼンハイド!??]
[誰も手を出すな。我が一人で片付ける]
そして彼の静止画が挟まり【皇国のダイヤモンド・龍騎士ジェダ】の文字と彼が冑を装着したと同時にバトルが開始された。
「間違いないわ。彼がアウゼンハイド王国の第一王子。噂には聞いてたけど…」
流れるように言ってるところ申し訳ないのだが、どこの国の誰だと?
そんな会話と同時に
「まぁ、あれや。気合い入れてこ。あと、味方が倒れてもアイテムとか使わんでええで。絶対に勝てんから」
「勝てない??」
「レベル、見てみ」
いつもは表示されている敵の名前の横のレベルが、【??】になっていた。
「この闘いはな、RPGお馴染み敗けが確定している戦いや」
「そんなバカな…」
なんでそんなのいれるの?
理不尽過ぎない?わからなかったらアイテムじゃぶじゃぶ使ってたって事?
「条件戦やないとええけどな」
三人がジェダと名乗った龍騎士を取り囲む。
「急所撃ち!」
一番レベルの高い凍慈の技がヒットしカッと黄色く光る。
しかし、よし!クリティカル!と思う暇さえなかった。
ダメージ表記は【0】だ。
「強打!!」
避ける気配もない。当たり前だ。
全員の一番火力のある技は全て【0】
「もう、良いか?龍滅の舞」
その技を受けた時に見えた数字は【9999】
「……嘘だろ」
三人が同時に吹っ飛ばされて、地面に叩き臥せられた。
はじめてHPが0、つまりゲームオーバーと呼ばれる状態になる。もちろん、凍慈曰く絶対に勝てない戦なのでゲームオーバーではないらしいが……。
「この娘は我が預かる」
凍慈の言った意味がわかった気がする。
だって、抵抗する意味すら最初から用意されていなかったのだから。
ゲーム、というものをやりはじめて、はじめて「絶望」した瞬間だった。




