中庭とカレー
海睹と薫また海睹と麻鈔の出会いのシーンを海睹目線で。
昔から気に食わないやつだった。馬鹿みたいにはしゃいで、クラスの中心にいて、皆から好かれるような人気者?…吐き気がする。だけど、そんなことより気に入らないのは、『あの人』がアイツの幼なじみだということだ。
俺は両親の言うことなんかこれっぽっちも聞いたことがなく、そのせいでこんな山奥の学校に入れられた。中等部からの編入生はそこそこ珍しく、見た目と性格も合わさって結果的にそこそこ浮いていた。元々頭も悪くなかったし、授業についていけないなんてことはなく、淡々とした生活にも馴れてきたころ俺の人生は変わった。
その日もいつものように授業をサボって中庭で昼寝をしていると、『ガコンッ』と大きな音がした。…人の睡眠を邪魔しやがって。文句でも行ってやろうかと起き上がると、驚いて声も出なかった。人の顔が目の前にあったからだ。間一髪頭突きをするまえにとめたが、相手はピクリとも動かなかった。その目は真っ直ぐ俺を見ており、目を見開いた俺が映っていた。
「こんなとこでサボっちゃったりしてんの?」
高くもなく低くもない中性的な声。不敵な微笑みは昔読んだ本で出てくるような魔女のようだった。クロネコがよく似合いそうだ。
「お前には関係ない。」
相手が同級生か先輩かもわからないが、敬語をつかおうとは思わなかった。
「ところがどっこい関係あるんだよねぇ、これが。俺、これでも生徒会に入ってるから、サボっている生徒がいたら見逃しちゃいけないのだよ。でもー、ぶっちゃけめんどくさいから共犯になろうよ?俺と一緒にお茶でもどう?」
もし本当に生徒会が見回っているのなら、ここでこのまま寝てたら見つかるのも時間の問題だ。選択肢は一つしかなく、名前も知らない自称生徒会役員について行く。前を歩くのは髪を後ろで一くくりにした女みたいな生徒。今まで足を踏み入れたことのない階に連れていかれ、廊下の一番奥、生徒会室に案内された。
「役員は全員見回りに行ってるから、実はここが絶好のサボり場所だったりするんだよー。」
躊躇なく開けた部屋の中には確かに誰もいない。言っていたことはどうやら本当のようだ。寮にあるよりも豪華な椅子に勝手に腰掛けグルリと周りを見渡す。なるほど、生徒会室というよりヨーロッパの宮殿の一室みたいだ。このデザインである必要性を感じない。全くもって無駄だ。
「クッキーはっけーん!!ラッキー!!」
テーブルの上に紅茶との割合がおかしいぐらいに、あらゆる食べ物が置かれる。お茶会というより食事会だ。サンドイッチはまだわかるが、なぜカレーが存在する?
「どんどん食べてねっ!オススメはぁ…、カレーだな。俺お手製!」
勧められるままにカレーを一口。…確かにうまい。思ったことをそのまま言ったら、あの魔女のような笑みじゃなく自然な笑顔を向けられた。絶対こっちの顔の方がいいと思う。
そのあと学校のことなど、見回りが終わる時間まで話したが、お互い身元、名前や学年でさえも話さなかった。向こうはどうか知らないが、また会うような気がしたから。
だけど、それから関わることはなかった。中庭で昼寝をしても、授業をサボっても、叱りに回って来るのは先生ばかりで、それでもムキになったのかはわからないが、サボるときはいつも中庭だった。会うことがなくても相手が有名だったから噂で名前が峻岑薫であること、学年が一つ上であることを知った。隣にはいつも幼なじみがいて、性格が凄くアホっぽくて、子供らしい。元からそういうやつは嫌いだったが、そのことを聞いてより嫌いになった。
……懐かしい夢をみた。
高等部に進学しても、サボり場所は変わらず中庭だった。中等部と違うのは広さと花の種類くらい。あとは今までここにいて誰かに話しかけられることがなくなったことか。先生たちも俺の中等部の噂を聞いたようで叱りになどこない。一度だって教室になど帰ったことはなかったからな。
何故自分が今でもここでサボっているかはわからない。峻岑薫という人が今も生徒会役員であるということをしったからなのか、それともただ単にここが気に入っているのか。
もしかすると俺はあの人に興味を持ってしまったのかもしれない。
ガコンッ
懐かしい響きに一気に目が冴えてしまった。心臓が高鳴る。俺の体はどうなってしまったんだ!?はやる気持ちを抑え、ゆっくりと起き上がる。だが、そこにいたのは予想していた人物ではなかった。黒髪の小柄な男子生徒。一気に現実に引き戻され、内心自分を苦笑した。何を期待してたんだろう。
いつもだったら話しかけてくるやつなどシカトするが、出会い方の問題か何故か相手の話しを聞いてやろうという気分になった。それで話を聞いてみると、どうやら微妙な時期の転入生のようだ。しかも同じクラスで同室者があの峻岑薫の幼なじみらしい。本人は心底ソイツを嫌ってるみたいだし、話があいそうだ。
一通り話し終わると嵐のように去っていく稔傘麻鈔という人物を見送ると、再び横になり寝ようとしたがあることを思い出した。アイツ『稔傘』と確かに言った。ということは理事長の関係者のはずだ。だから時期外れの転入生か。稔傘ねぇ…。知ってるやつは知っているはずだ。
「『あの人』の一人息子か。」
だんだんと照ってきた日を浴びながら、考えることを放棄した。この時はまだ、思いがけない再開があるとは知らずに。
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海睹はいつの間にか薫にベタ惚れです。
もうちょっと先まで書きたかったんですけど、長くなりそうだったので切りました。
続きも書きたいなぁと思います。




