ユニーク
「ーーーーーーえ…………?」
たっぷりの間をあけて、彼ーーロビン・パティエール伯爵令息ーーは言葉を落とした。
夢を見ているみたいに呆けている。
ロビンのそんな表情はレアなのでしっかりと焼きつけておこう。少し憔悴しているようにも見えるわ。大丈夫かしら。
放心状態のロビンがまた口を開こうとするより先に甲高い声が響いた。
「…っいいの!?ぼくのためにそんな…っ」
「べつにあなたのためではありませんよ」
何言ってるのよ。感極まって嬉しそうにしないでよ。
わたしのためよ。
「ーーぱ、パリス、今、なんて」
ロビンが震える声でわたしに問いかける。
キャシディを振り払おうとしているけれど存外強い力なのだろう、余計に抱きこまれている。
…左腕、捥げないかしら。
「婚約を解消しましょうかと言ったわ」
「な、なん、ーーなんで、」
「……だって、……疲れちゃったんだもの」
ものごとには優先順位がある。何を大事にするかで、そのひとを知れるというものだ。
蔑ろにされていなくても、選ばれない。
悩んだ結果だとしても天秤は傾かない。
わたしはいやだと、何度も言ったわ。
今だけと言われてもそれはいつまで?
待っていてと、それは一体いつまで?
キャシディの体調が良くなり、環境に慣れるまで?
それが永遠になされなかったらどうするの?
それまでずっとわたしはひとりで、去ってゆく背中を見つめていなければいけないの?
「…」
ねえ、ロビン。
それでも愛されているとわたしが実感できていたのは、信じていられたのは、
自分は特別だと、揺るぎない自信があったからなのよ。
「……そんな顔しないで、ロビン」
泣きそうに見つめるロビンがいて、自嘲で微笑んでいるわたしがいる。
「今日は、……今日は婚約記念日なのよ」
泣きたいのはわたしよ。
そんな日でもやはり、選ばれず。
特別だと思っていた一日が、いつもと変わらない一日になる。
誕生日はもう諦めたのよ。
今日くらい、その物体を放り投げて選んでくれると思っていた。
「……わたしは特別では、なくなっていたのね」
それに、気づいただけよ。
「ーーっごめんパリス俺、勘違いを、」
「記念日なの!?お祝い…あっ!解消…」
「…ッ、黙ってキャシディ!離してくれ!」
「…」
「!ま、待って、…パリス、ごめ、」
今度は青褪めて、必死な形相だわ。
今日は見たことのないあなたの表情を、いくつも見れた。
性悪に感謝するべきかしら。
ーーなんてね、冗談じゃないわ。
「……さよなら」
本気で振り払おうと思えばできるのに、あなたの頭のなかの天秤は、身体が弱いからと。
揺れているのよね。
「…パリス…ッッ!」
勝ち誇ったようにほくそ笑んでいる病弱な、幼なじみには気づかずに。




