第22話 「紅き地に来る」より
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ゲームと同じく、他陣営への侵攻は、数を揃えた者が勝つ。
また、魔族の論理は単純明快。つまり、圧倒的だ。
前回の天界侵攻は、言うなれば観光名目であったのに、結果は威力偵察となってしまった。その末に結ばれた不可侵条約は、事故のような偶然が積み重なった産物に過ぎなかった。
だが、今回の地界侵攻はそんな笑い事とは違う。
これは魔王カリスタの意思ではなく、“魔界の総意”。
ゲームと近い投票によって進められた、制度化された侵略。
カリスタはそれに従い、否応なく地界へと兵を送り出す。
いま、地界は圧倒的な数の暴力に晒されていた。
人間たちの住処は、魔族の軍勢に蹂躙され、赤く染まっていく。
ゲームであれば、三界すべてを初めて支配したプレイヤーとして称賛されていた。
それが【魔王】という称号を冠した「【魔王】カリスタ」というキャラクターだった。
だが、現実は違う。
血が流れ、家が焼かれ、命が失われていく光景を前に、
栄誉の二文字だけではとても語れない。
止めるには、あまりにも事態は大きくなりすぎていた。
魔界の総意、それに頷いた魔王としての責任、そして、カリスタを信じて戦場に立つ従魔たちの忠誠――
それらすべてを裏切ることなど、できるはずもなかった。
だが、それでも。
カリスタは、心のどこかで問いかける。
「これが、本当に私が望んだ世界なのか?」
――かくして、カリスタは〈焔に抗う者〉たちの足音を聴く。
『魔王カリスタ転生戦記《焔に抗う者たち》』
第22話 「紅き地に来る」より
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