第2いいよ! ハンドメイドの世界へ飛び込もう!~手芸・ナノビーズ編~
学校が始まる前に軽くジョギング。
まだ日も上がり始めたばかりで薄暗い景色が段々と明るく彩られる、鳥達の歌声、着ているジャージが擦れる音、アタシの息遣いが遠くの人に聞こえてしまっているのではと思うくらいの沈黙が流れる住宅街。
早朝ランニングは中学時代自主練としてやっていたが運動部に所属していない今も習慣になっており私はこの時間が好きだ。
平屋の自宅へ到着し汗をタオルで軽く拭きながらバスルームへ。
シャワーを浴びた後に歯を磨きながらYutterを見るのが私の朝のルーティンになっている。
"Yネーム@A_A♪"……梓のツブヤキがあったので見てみると
【趣味活動部発足!略して"しゅーかつ"!頑張るぞー!】と手書きの看板の画像が添付されておりニヤリとしてしまう、アイツ楽しそうだな……そのツブヤキの星マークをタップすると画面に星マークが一瞬少し大きく表示され相手に"いいよ"がついた。
そういえば趣味の欄に動画鑑賞とアイツのYに書いてあって、他のツブヤキも私がおすすめしたアーティストが気に入ったのかその話題ばかりで昔からアイツ影響されやすかったなと歯を磨き終え思う。
自室でブレザーに着替え登校、また学園生活が始まるが放課後を迎えるのが少し待ち遠しい。
また梓と"ゆるーい時間"を過ごせるからだ。
放課後になりアタシのクラスである1-3教室から1-1へ。
教室の扉に昨日手作りした部活の看板が飾ってありその出来は中々よく出来ている、可愛い……。
中へ入ると既に机を準備していた梓が「乙~」と声を掛けてきたので私も返しいつもの席へ。
これがしゅーかつ部での挨拶に定着している。
「ねね、昨日いいよしてくれたよね、看板我ながら上手くできたかもー!」
「ああ、可愛いと思ったぞ。
お前って結構手先器用なんだからそういう趣味も増やしてみるのはどうだ?」
そんな話しをしているとガラガラッと教室の扉が開く、2人でその方向を見ると長い髪が綺麗な女性がおりアタシ達の方を向いて軽く手をあげている。
「お、あずーやん、乙~」
「乙~、英玲奈ちゃん忘れ物?」
「せやねんなー家に戻ってから気が付いてダッシュで来たわー、疲れた~……ってそこにいる人はもしかしてちなみさん?」
アタシへ目線を向けるとそう言ってきたので何故名前を知ってるのか聞いてみると、1年生のボーイッシュでかっこいい系の女の子がいると一部で話題になっているらしく、英玲奈さんもそれで私を知ったらしいがそんな噂は初耳で少し照れていると、話題は私達が何をしてるかになった。
英玲奈さんは梓のYを見て大体は部活動の事を知っていたので、次はどんな事をしようかと話し合っていることを伝え、何かハマっている事がないか聞いてみる事にした。
「英玲奈さんは何か趣味とかある?」
「呼び捨てでええよー、その代わり私はちなみちゃんの事"ちー"って呼ぶねー……ウチは手芸かな?」
Yutterを開いて彼女がツブヤキを見せてくれた。
そこには手作りの人形などカラフルな画面が広がっており、アタシの好きなキャラもありテンションが上がってしまう。
でもアタシは不器用な方だし人形作りは難しそう……そう思っていると英玲奈が最近やり始めたと言う"ビーズ"を勧めてくれた。
翌日の放課後、家庭科の先生に許可をとって英玲奈も加えた3人で3階にある家庭科室へ。
目の前には彼女が用意してくれた道具が用意されていてカラフルな小さいビーズの色が目を引く。
「英玲奈"先生"!昨日調べて来たんですけどビーズを土台に並べてアイロンの熱で固めて作るんですよね!?」
「正解!あずー予習できて偉いな~」
頭を撫でられエヘエヘと梓は笑顔を浮かべている。
アタシも昨日どんな物なのか調べた。
いくつか突起のある土台にビーズをピンセットで掴み並べる、土台が透明だと下にネットや市販されている図を置いて出来るので楽みたいだ。
ビーズにもいくつかあり一般的なビーズ、丸い形が特徴のアクアビーズ、今回使用するビーズよりも小さいナノビーズなどがあるらしい。
並べ終わったらシートを敷いてその上からアイロンをかけて固め、ひっくり返し土台をとって裏も同様に固めて完成だ。
言葉にすると簡単そうだが、いざやって見ると並べる作業が思いのほか進まない。
慣れている英玲奈はともかく梓もゆっくりだが確実に出来ている。
アタシはナノビーズをピンセットで掴んだ後にどこかへ飛ばしてしまったり、並べる場所がズレて最初からやり直しなど苦戦していた。
「ちーもうちょい肩の力抜いてやってみ?
リラックスリラックスー」
助言をしてくれて肩を揉んでくれた。
気持ちの方はだいぶリラックスできたが肩を揉まれ手元が安定しないので正直やめて欲しかった……
やっとの事で並べ終わる、今回は各自違う物を作っていた。
梓はいいよ型のスター、英玲奈はハート型、私は"いそうろうぐらし"と言うアニメの黒クマをデフォルメした人気キャラ"くろくま君"を作成していた。
「さて、ここからが本番やで~
シートを敷いてアイロンで弱か中であっためるんやけどちゃんとくっついてへんと逆さにした時バラバラ~!って崩壊するから気をつけるんやで?ウチもそれやらかして心何回か折れとるから……」
それを聞いてじっくりとアイロンを当て裏返し土台を外す。
なんとか崩壊しなかったが裏側もあっためて完成した物を見るとビーズが溶けて形が少し悪い気がする。
最初のアイロンがけはそうなりやすいので表になる方を後にアイロンがけするよう完成図を裏返して作る方法もあるらしい。
英玲奈の完成品は流石、ナノビーズ一つ一つの形が保たれてて綺麗だ。
梓はアイロンがけに失敗したらしく少し崩壊し泣きそうになっている。
「あちゃー……でもこれくらいなら大丈夫やでー
土台から外しても大体の位置に置いて逆から固めたらええんやからここをこうしてっと……どや?」
「直ったー!ありがとう英玲奈ー、命の恩人!」
「大袈裟やなー……ちー上手やん!始めてでこれだけ出来るとはやるやーん!」
褒められて素直に嬉しかった。
その後梓もなんとかでき、完成したものをグルーガンで趣味活動部の看板に貼り付ける……不器用だがそれが逆に個性があり個人的には好きだ。
「今日はありがとな英玲奈」
学校からの帰り道が私と一緒だったので共に帰ることにした。
途中感謝を伝えると笑顔で「どういたしまして~」と返事が帰ってきて、続けて私に相談したいことがあると言うので何か聞いてみた。
「部活入ってなくて何しようか迷っとったんやけど、ウチが趣味活動部に入るのってアカンかな?」
「そんな事ないよ、アタシも人数増えるの嬉しいし梓も絶対喜ぶよ!」
「そっかー……じゃ私も"しゅーかつ"始めようかな!
明日からまたよろしゅうな、ちー」
こうしてまた1人部員が増えたのだった。
本日の趣味について江島 英玲奈からメッセージがありました
【初心者の人は必要な物があらかたセットになってるやつ買うのがオススメやで~
あとアイロン当てた直後のビーズはアチアチやから気をつけてな~】