第11いいよ! 過去を乗り越えろ!アタシとワタクシの未来~旅行編5~
かな姉の実家でゆっくりしてこのまま時間が過ぎないかと黙っていたが、「そろそろ行きましょう」と立ち上がりアタシの肩をポンポンと叩かれ少しため息をついて車内へ。
「かな姉どこ行くんですか?」
「敬語」
「あっ、ごめん……かな姉これからどこ行くの?」
「前にも話しましたけどちなみの服をチョイスしに行きます」
「でもアタシ女の子っぽい服とか着たことないけど似合わないって思うんだけど……」
「してもいない事を無理と言う人は嫌いです、ですのでまずは着てみましょう」
目的地へ向かう車内でこんな会話をしたがこの人はそう簡単に折れる人ではなく、自分がこうしたいと思ったらその案が通るまで押し進めてくる人なのだ。
そうして車は20分ほど走り目的のアウトレットへ到着したのだが、ここは水族館の近くで2人乗せてここへ来た方が良かったのではと意見すると一瞬ハッとした表情を見せたが、道中も思い出に残るようにと思って言わなかった。と発言しているがこの人の事だ、今気がついたけど冷静さをウリにしてるから焦らないでいようと考えている、この人はこういう人なのだ。
「着きました、ここです」
いくつかの洋服店等が並んでいる中、目的地である店は内装がピンクになっておりフリルのついた洋服等が並んでおり凄く先行きが不安になる。
入店すると華やかな人が1人こちらへ向かってきた。
「佳奈久しぶり~元気してた?」
「はい、早苗こそ元気そうでなにより。今日は事前に連絡してた子の事をお願いしたく」
店員さんは私に目を向けてきたので、自分の名前を名乗り頭を下げるとかな姉から彼女が誰なのか説明があった。
彼女は里中 早苗さんで歳はかな姉と同じで高校の同級生で、引っ越す前はよく遊んでおり仲が良く、離れ離れになった今でも連絡を取り合う仲らしい。
しかし里中さんを見ていると外見も若く見えるのはそうなのだが、大きなリボンとフリルがついた可愛らしいブラウスにブルーのリボン、中央にハート形のビジューがある服を着ているのに無理な感じはしなく似合っておりこの人達は本当に30後半ぐらいの人達なのかと疑問に思った。
「えっとちなみちゃんだよね、スラッとしてていいわねー」
「ありがとうございます、アタシこういう所初めてで……」
「そう、それじゃ私に任せなさい!絶対可愛くしてあげるから」
可愛いとか柄じゃないんだけどな、とは思いつつ"ファッションショー"が始まった。
最初はロングのワンピース、まあこれくらいならと思って試着したのだが何か凄い恥ずかしい気分になってしまう、スカートなら制服でいつも着ているのだが学校ではなく外だからだろうか違和感が凄い。
次はデニムのホットパンツなのだがこれは露出が高すぎてアタシには無理だ……
「ちょっとそれは露出高すぎ……里中さん、別なのありません?」
「そう?それじゃこのミニスカートに……」
「もっと露出高いじゃないですか!」
こんなやり取りをして最終的に決まったのは……
「こ、これが私……」
ミニ丈の黒のキャミソールにシアー素材を使ったシャツを羽織り、スカートショートパンツとベルトも黒で合わせ、足元はレースアップのブーツサンダルを選択し個人的には大人っぽく見えるデザインになり大人2人組も満足しているようだが値段が気になる所だ。
「かな姉予算が……」
「もちろん私が全て払いますよ」
「えっ!?でも高いんじゃ……」
「私のワガママもありましたし何よりちなみに似合ってますし、私からの誕生日プレゼントだと思ってください」
「誕生日思いっきり先なんだけど……」
金井 佳奈
【コーディネート完成です。やはりカッコイイ系だけでなくこういった服も彼女には似合いますね。】
アタシの写真には続々といいねがつけられコメント欄にはしゅーかつ部の皆から【可愛い!】とか【付き合って!】とか本気なんだか冗談なんだかわからないコメントがあり穴があったら入りたかった。
その後はアウトレットには喫茶店があり外でアイスココアをご馳走になっていたがどうもまだこの格好に慣れていない。
「アタシこれ似合ってる?」
「はい、とても」
「自分じゃよくわかんない……ね、どうして女の子っぽい服着せたいなんて思ったの?」
「昔を少し思い出していたから……ですかね」
「昔……」
◇
かな姉と初めてあったのは幼稚園に通っている時だったか、近所にあった家がかな姉のおばあちゃんの家で教師になり転勤してきた為そこに越してきたのだ。
アタシが1人で外で遊んでいる時にボールをぶつけてしまったのが始まりだった。
「お姉ちゃんごめんなさい……」
「いえいえ、わざとではなかったのでしょう?それに謝れて偉いですね」
表情を変わらず真顔みたいだったのだが口調のせいか優しく感じて、アタシが1人で遊んでいると言うと「私も運動不足なので付き合います」と言って一緒に遊んでくれた。
いつの間にか家族ぐるみの仲になってて父がその時苦手だったので母の他に優しくしてくれたかな姉といるのは凄く楽しかった、母がいるまでは……
母がなくなり一時期塞ぎ込むようになっていたが父と和解し小学校へ、その時ぐらいからか服装も母が購入するような女の子っぽい服から父が選んだ男の子っぽい服を着るようになり男子と話す事も多くあってか口調も男らしくなっていった。
しばらくかな姉とは会っていなかったが、ふとした時に自宅へ来ておりいつもと変わらないやり取りをしていたのを覚えている。
◇
「……ちなみ、申し訳ありませんでした」
急にこちらを向いて謝罪してきたので何が何だかわからず焦ってしまう。
「どうしたの!?別に謝ることなんか……」
ゆっくりと顔を上げたその表情はいつもの真顔だが少し目が悲しそうな感じがした。
「……私は他人に興味がないのです」
「どういう事?」
「私は昔から他人に興味がなく、友人が困っていても手を出さず傍観するタイプの人間でした。そんな自分を変えたいと教師を目指したのですが、根を変えるのは大変で治すまで……いや今も若干ではありますが、そういう所がありますが……治すまでこの年齢になってしまいました」
「他人に興味ないって……アタシにも部活でも色々、今回だって旅費が少ない梓と春先輩の為に車まで出して1人で運転してくれたじゃないか」
「今はそうあろうと思い行動しているからですよ……教師になって初めて部活を任されて、美術部だったのですが、忙しさを理由に彼らの活動に参加せず、結果美術部は廃部になりました」
アタシの知らない所でそんな事があったなんて……かな姉は表情を変えず淡々と話しを続けた。
「ちなみのお母様が亡くなった時だってそう、落ち込んでいたあなたを励ます所か見て見ぬふりをして問題が解決したら何食わぬ顔で行っていつも通りになろうとする、そんな人間なのです」
「かな姉……」
「……皆さんが私を顧問にと選んでくれた時不安しかありませんでした。また前の部活のように廃部にさせてしまうのでは……ちなみの時のように見て見ぬふりをしてしまうのではないか、と……でもあなた達は私を強引にでも引っ張ってくれて、私も力になれれば思えるようになったのです」
この服装は昔アタシを慰めたり出来なかった罪滅ぼしだったのか、かな姉がどこか冷たいように感じてしまうのはそういう理由があったのか……色々な点と線が繋がるような気がしてすっきりした。
少し目が潤んでいる彼女へココアを一口飲んでから空を見上げ独り言のように呟く。
「昔は昔だよ。母が亡くなったことに父もアタシも自分に原因があるんじゃないかって悩んでたけど、そうしても母は帰ってこない……そう思って前を向くようにしたんだ。だから不登校になった親友も励まして学校来させられるようになったのかも……もう後ろ見るのやめない?今のかな姉頼りになってアタシだけじゃなく皆も信頼してるし、このしゅーかつ部にはかな姉じゃなきゃダメなんだよ。
それにかな姉はそう思ってないだろうけどアタシ達はかな姉も部員の1人みたいに考えてるしこれからも"趣味"だけでなく"悩み"も共有していこうよ!」
ふと彼女の方を見ると、目から涙が流れているので拭いてあげると申し訳なさそうにしていたが、しばらくして落ち着いたのかいつもの表情に戻っていた。
「ありがとうございますちなみ……っと私も部員なのでしたね……ありがとうちなみ、凄く嬉しい……これからも私でよければ力になるから。それに何かあった時力になってよね、約束だよ?」
そう語る彼女の表情はアタシが見た事もないような柔らかく自然な表情だった。
根が他人の事どうでもいいなんて嘘じゃないか、本当は他人の事気にしすぎてなんて声をかければ良いのかわからなくなっているだけなんだ。
本当は誰よりも優しくて頼りになる人、他人の事を思えてない人がこんな表情出来るはずがないのだ。
「……かな姉そろそろ帰ろうか」
「そうだね、皆帰ってくるだろうし……そうだ!帰ったら枕投げやろう!」
「いや先生いくつなんだよ……」
帰る間際テラス席で2人がピースしている写真を撮ってYutterにアップした。
長宗我部 ちなみ
【ここにしゅーかつ部"6人目"の部員が誕生した!皆で祝ってくれ!】
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