第9いいよ! 春ちゃんと水族館へ!私の過去と春の気持ち~旅行編3~
車に揺られ約4時間、先生の実家がある仙台市の若林区へ着きました……
先生の実家は木造2階建ての若干古い家だけど部屋数が多く2階は2部屋、1階は3部屋あって、1階の2部屋が襖で仕切られていて、開けると繋げられるのでそこで皆で就寝する予定……
玄関の扉を開けると先生の両親が出迎えてくれた……
優しそうな人達で長旅で疲れたでしょとリビングへ案内してくれて冷たい麦茶を差し出してくれた……それを口にすると五臓六腑へ染み渡る、先生はおかわりを要求し何杯も飲んでいる……
「私とちなみはここで休んでから出掛けます。皆さんは各自決められたペアで行動するように。
あと帰りはあまり遅くならないように、何かあれば連絡してください……あとYutterに更新お願いします」
皆の顔を見ながら真剣に話す姿を見ていると頼りになるなと感じる……
しばらくして愛川さんが声を掛けてくれて"うみの杜水族館"へ……
バスと電車に揺られ約1時間、目標の場所へ着くまで彼女は私に笑顔で話しを振ってくれて移動時間も楽しく過ごせた……
「それでねー春先ぱ……じゃなくて"春ちゃん"、なんかなれないね、えへへ……」
無邪気な笑顔で頭を軽くかいている姿が凄く眩しい、窓側に彼女がいるからそう思えるのか、元々彼女が眩しいのか……
「着いたー!おっきー!あ、水族館の隣公園ある!後で行こ!」
「うん……でも暑いから……熱中症気をつけて……」
愛川 梓
【水族館到着!春ちゃんの服可愛すぎー!】
ぴょんぴょんと跳ねて騒いでいるとツーショットを撮られYutterへメッセージと共にあげられる……
しばらくするとしゅーかつ部の皆の他にも学校の子からも"いいよ"が貰えて少し恥ずかしいけど嬉しい……
スマホを見ていると愛川さ……ちゃんが私の手を取り中へ入るよう言われる……
平日なのに混んでいて夏休みなのを改めて実感する……
入口には"いそうろうぐらし"とのコラボが行われている事が書いてあるポスターが貼られていて、受付でスタンプカードを貰い愛川ちゃんと一緒に集めようと約束、そしてそのポスターの前で写真を撮ってあげると言うと彼女は両手を頬の辺りに持ってきてワシャワシャと指先を動かしている……
「なに、それ……?」
「これ?"ダイオウグソクムシ"だよ!ダイオウグソクムシ~」
「ぷっ……なにそれ……面白い……もう1回見せて……」
「ダイオウグソクムシ~!」
花ノ木 春(Yネーム@HanaHaru)
【ダイオウグソクムシのポーズらしいです……可愛い……】
Yutterにそのポーズをアップすると続々といいよがついた……春もいいよをつけて中を回ることに……
イワシの大軍のライトアップ……鯉へのエサやり……ペンギンの散歩……イベントがいっぱいあって楽しかったし、何より隣で笑顔で楽しんでいる子を見てるともっと楽しくなった……
「イルカもいるよ!子供出来たからショーはなしだって、ちょっと残念だけどしょうがないよね!」
「うん……次は見られるといいね……」
少し残念そうにしてたけどすぐ私を見て笑顔を振りまく……この子は落ち込んだりする事はあるのかなと少し思ったりする……
「あー面白かった!スタンプも集められたし、ちなみちゃん達に"いそうろうぐらし"のグッズもいっぱい買っちゃったー!」
「荷物……凄いね……春も持つの手伝うね……」
水族館を一回りし外の公園のベンチへ一緒に座り、携帯していた日傘を広げ彼女に日が当たらないようにすると「ありがとう」と満面の笑みをして返答してくれた……
「あのね……変な話しになっちゃうかもしれないけど……愛川……ちゃんは……落ち込んだり……するの……?」
「落ち込んだりかー……高校生になってから部活が無くなりそうになった時は少しなったかな?」
「そう……なんだ……それじゃ、その前は?」
春がそう聞くと表情が少し曇ったのがわかる……口角は上がっているが目が笑っていない感じ……足をブラブラと揺らしてゆっくりと彼女は口を開いた……
「……春ちゃん、ちょっと暗い話になっちゃうかも。
それでもいいなら話すけど……?」
「……いいよ、春、愛川ちゃんの事……もっと……知りたいから……」
「ありがとう!……私が中学生の時の話しなんだけどね……」
◇
今日も学校へ来るよう家に電話があった。
義務教育だから行かないと行けないのはわかるけど行きたくない、背が低くてからかわれ、前髪を切りすぎてバカにされ、言動が幼いと言われハブられて……
希望に満ち溢れた中学生活、楽しかったのはちなみちゃんと言う友達が出来た事だけ、それからは不登校になっていた。
私を心配してちなみちゃんが何度も家に来てくれているが前髪が伸びるまで会う気もないし、伸びても会う勇気がない。
ふとゴミばかりの部屋に置いてあった手鏡で私を見る、暗い部屋のせいか表情がない、最近笑ったのっていつだったか思い出せない。
次第に学校だけでなく外に出ることすら怖くなった、他の人から何か言われてるようで恐怖を感じるようになり、美容室も今の私を見たら笑われるのではないかとセルフカットしては変な髪型になり憂鬱になる。
いっそいなくなりたい……
手首を切って水につけたら楽になれる、ドアノブに紐を括りつけての首吊り、そんな事ばっかり調べるくせに実行する勇気がない、そんな毎日を過ごしていた時にちなみちゃんが私の部屋に勝手に入ってきた。
ゴミで散乱する部屋の中を足場を探しズカズカと私に近寄ってくる。
恐怖、戸惑い、情けなさ、色々な感情がひしめき合い動けない……そして私の胸ぐらを掴んで彼女は言う。
「いい加減にしろよ!お前が居なくて私だけじゃなくて皆心配してるし悲しんでんだよ!学校こいよ!」
身勝手な言葉、人の気も知らないでそんな事言われても……涙が溢れ彼女へ久々大声を出した。
「私に……私に何があったか知らないくせにそんな事言わないでよ!」
「言われなきゃわかんねーだろ!なんで……なんで友達である私に何も言ってくれねーんだよ!アタシがどんだけこの数ヶ月辛かったか……わかんねーだろ……」
胸ぐらを掴む手を徐々に緩ませ彼女も涙を流していた。
何も言わないから相手も何も知らない、人は超能力を持っていて言わなくても人の気持ちがわかるなんて便利な能力はない、言わなければわからないのだ。
掴んでいた手を離してギュッと抱きしめられ、呆然としながらも涙が止まらない。
「……ちなみちゃん……1つ聞いていい……?」
「なんだ……?」
「この髪型、変じゃない?」
「変だよ、でもその前髪可愛いと思うし整えてもらえば変じゃなくなるよ……そうだ、今から行こうぜ!」
「でも、外怖い……」
「いいからいいから、ほら早く着替えて行こうぜ!」
無理やり着替えさせられ近くの美容室へ髪を整えてもらうと特に美容師さんから笑われる事もなくてセルフカットのやり方など教えてもらえ、自分でやるよりも綺麗してもらえて、鏡に映った私は照明のせいもあるだろうがいつか見た部屋での私とは違く眩しく明るく見えた。
「よく似合ってるよ梓!あ、そうだこれ」
美容室の中で待っていてくれて髪を切り終えた私を見て音符型の装飾がある髪飾りを手渡された。
「可愛い……これ私にくれるの?」
「ああ。お前がいつか学校また来るようになったら渡そうとしてたんだがな……つけてみろよ、それ絶対似合うから」
左の髪につけると彼女は笑顔で頷いていた。
翌日ちなみちゃんが家に来てくれて学校へ一緒に登校してくれた。
不安しかなかったがクラスの皆は明るく接してくれてこの髪型の事も褒めてくれた。
私はいじめられていると勘違いしていただけだったらしい……背が低くて可愛いと言われた事を嫌味だと思い、前髪切りすぎて笑われた事もからかいとかではなく友達がちょっと失敗してそれを皆で笑う感じのやつだったみたいで、言動が幼いのは事実だがそれを理由に壁を作っていたのは自分の方で、それを自覚した時は恥ずかしくておかしくなりそうだった。
一人相撲、ただそれだけの事だった。
これからは積極的に皆と話しをしよう、嫌われてもいいから笑顔で自分から相手を嫌いにならないようにしよう……そう考える……考えるようにしました。
◇
「……これが中学の私の話、退屈で長くてごめんね?」
彼女の話しを聞いて涙が止まらなくなってしまった……いつも笑顔の彼女にそんな過去が……涙を拭いてやっと落ち着いてきたので彼女の方を向いて話す。
「退屈なんかじゃない、いつも笑顔の愛川ちゃんにそんな事あったなんて……」
「今はもうあんな風にはならない、だって信頼できる部活の皆がいてくれるから、もう1人じゃないから……だから勝手に部活辞めたりしてどっか行っちゃったりしちゃダメだよ?寂しいから……」
「わかった……春で良ければ一緒にこれからも部活していこ……愛川ちゃ……梓ちゃん!」
「ありがと春……呼び捨ては流石にマズイかな?」
「大丈夫だよ……これからも敬語、使わなくていいから……」
梓ちゃんと一緒ならもっと元気になれて幸せになれそう、彼女には伝えてないが部活を辞めず続けているのはそれも理由にある、だからずっとここへいたい……
少しだけ涼しくなり時間が経過していた事に気が付き帰ろうとした時彼女から提案があった。
「最後に春と同じポーズで撮ってYutterあげよ!」
「いいけど……ポーズ……ふふっ、あれにしよ……?」
「あれ?しょうがないなー気に入ったの?」
彼女の問いへ笑顔で頷いて写真を撮って先生の実家へ向かうことにした……
愛川 梓
【春と水族館めっっっちゃ楽しかった!また来たいな!2人でダイオウグソクムシー!】
写真には2人とも笑顔で頬の辺りで指を動かしている姿が映し出されていた……




