外伝その4(特別編).異世界での日常~能力がゴミすぎて困ってる件〜
【登場人物紹介】
・愛川 梓
高校1年生。高校に入学しYutterを始めるが趣味の欄が埋められず、部活を作り仲間達と新しい事を共有しようと"趣味活動部"を発足、趣味活動部部長。
前髪パッツンで左の音符型の髪飾りがトレードマーク。
性格は社交的で誰とでも仲良くなれる自信があるらしい。
・長宗我部 ちなみ
高校1年生。愛川と中学からの仲で、彼女と同じ高校に入り共に趣味活動部を盛り上げようと部員になる、趣味活動部副部長。
ボーイッシュでベリーショート、身長も170cmあるためパッと見女の子には見えないが可愛いものに目がない。
口調は男性のような言葉使いだか、ふとした事で女性らしい口調になったりする。
・江島 英玲奈
高校1年生。元々裁縫が趣味だが、もっと趣味を増やしたいと思い入部。
愛川とは同じクラスで席も前後なので話す機会が多い。
小さい時に京都に住んで途中から標準語を覚えた為、話し方がエセ関西弁になっている。
茶色のストレートロングが自慢で手入れも怠らない。
手先が器用で愛川とボケ担当を務める。
こちらに飛ばされてきて何日経過したのだろう……一緒に転移した梓と途中合流した英玲奈は能天気で、現実世界に帰る気があるのかないのか。
少し古びた宿屋で目を覚まし、いつもの日常が始まる……
◇
まずはお金稼ぎ。異世界でもこの常識は変わらないらしく、仕事を紹介してもらえるギルドという場所には様々な仕事があり、モンスターの討伐の他、建築現場の手伝いや設営スタッフの募集など様々あり連日人……緑の肌をしたゴブリンみたいな奴とか、鎧を纏った大男などでごった返している。
「私これやるねー!」
受付の女性に相談するか、コルクボードのような掲示板に貼られてある紙を見て好きな依頼を持ってくるかの二択なのだが、梓が持ってきた依頼は【パンにゴマを乗っける】仕事だった。
「おいおい、それ安すぎだし地味すぎんか?第一こういう単純作業お前に向いてないだろ」
「あーちなみちゃんバカにした! ふーんだ、見ててよね。ちゃんと報酬もらって帰ってくるから!」
頬を膨らませ魔法陣が書いてある場所まで移動し、その床に乗ると梓の姿が消えた。
ギルドから仕事をもらい契約すると、その魔法陣で目的の場所に移動させてもらえるのだ。
そんな訳でアタシと英玲奈は仕事を吟味しながら彼女を待つことにした。
「あずー大丈夫かなぁ?」
「大丈夫だ、アタシの予想じゃすぐ帰ってくる。
『えーん、地味すぎて続かなかったよー!』なんて言って泣いて帰ってくるさ」
「そうかなー……ってもう戻ってきた!確か行って十分しか経ってへんで!」
彼女が泣きながらとぼとぼと歩いて来て一言、「えーん、地味すぎて続かなかったよー!」と言い放つので、「ほらな」と指差して英玲奈の方を向くと呆れたようなため息をついていた。
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「よし、次は戦闘関係の依頼ね! 私さっきは失敗しちゃったけど"汚名挽回"! 簡単でラクなの取ってくるからー!」
そう言って梓は掲示板から【洞窟に潜む伝説の悪魔、"血の十字架"の討伐】と記述してある紙を持ってきた。
「どこが簡単でラクそうなんだよ! "伝説"って書いてんじゃん! 名前からして強そうだし別なのにしろ!」
「えーちなみちゃんワガママだなぁ……じゃあこっちの【白き大地にそびえ立つ失われた剣"伝説の魔神剣"回収】は?」
「まーた"伝説"入ってんじゃねーかよ! これも難しいそうで却下。お前に任せるとお金がいくらあっても足らん……ここの世界では死んでも甦れるけど、それには金必要なんだぞ。金稼ぎしに行くのに金使うようじゃ意味ないだろ?」
そう説教していると、英玲奈が掲示板から何か選んでこちらに持ってきた。
「これなんてどうやろ!【黒いマントの男、一体の討伐】やって! 簡単そうやろ?」
「うーん、"一体"なんて表現なんだから同じような奴が複数いるって事だよな……て事はそんな強くないのかもしれないな」
「"一体"って……"一体誰"なんでしょう……なんちゃって!」
「あはは! それオモロイわ、もう一回言うて!」
「"一体誰"なんでしょう」
「ぎゃはは! もっかいもっかい!」
「"一体誰……」
"バカ"二人はさておき、仕方ないのでこの依頼を受ける事に決定し魔法陣に三人乗りワープした。
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「ハーッハッハッハ! 我は"伝説の黒きマント、バッド伯爵"だ! 小娘どもよ、その命と生き血貰い受ける!」
「強そうじゃねーかよ! てかまた"伝説"かよ! どう責任とんだ! アタシ達ここに来て少ししか経ってないしロクなアイテム持ってねーんだぞ!」
目的の場所に転移してからしばらくして、森の奥にあった洞窟に入ると人間型で黒いマントを羽織ったコウモリみたいな男……ドラキュラがアタシ達の前に現れ名乗ってきた。
こうなったらしょうがない、武器や防具も壊れて装備してないし、転移してきた学校の制服のまま、回復アイテムも梓と英玲奈が腹一杯喰ったせいでない。
しかし"希望"はある、こちらに転移された時に謎のジジイから貰った不思議な力……俗に言う"スキル"があるからだ。
「仕方ない……みんな行くぞ!」
アタシが二人に声を掛けると「応っ!」と元気よく返事し構え、仁王立ちしている伯爵へ最初は梓が走っていった。
「くらえー! 《雷ドカーン》!」
「前にも言ったけどだせーから名前変えろよ!」
アタシのツッコミを無視し梓が走りながら両手を上にあげ走って行くと、洞窟内に雲が発生しゴロゴロ……と音を立てた直後、雷が凄まじい勢いで落下する!……梓目掛けて。
「ギャー!! ビリビリするー!!」
「……」
この失敗は最初の頃やったのに学習能力がないのか、同じミスを繰り返している。
梓の能力は天候を操る能力だが、それは彼女の上"だけ"変化させるのみ、しかも感情にも左右され彼女が悲しくなったりすると自動的に雨が降り、術者本人を濡らす……先程のギルドでも省略はしたがアイツは水浸しになっていた……と言う使えないゴミのような能力だ。
しばらくして体から煙を出し梓は死んだ。
◇
そんな様子を見て英玲奈が歯を食いしばり伯爵を睨んで能力を解放しようと弓を引くような構えをする。
「よくも……よくもあずーを! 許さへんで伯爵!」
「いや伯爵何もしてないんだが……」
英玲奈の周りに光が集まり、やがて弓と矢が形を現しギリギリ……と音を立て狙いを定め矢はビュン!という音と共に伯爵目掛けて飛んでいく!……が、マントを軽くなびかせると弓は消え去ってしまった。
「あー……あかんわ、失敗してもうた。ウチのスキル発動する度に力の強弱変わるの忘れてたわ……放つ時威力わかるんやけど、今回は"爪楊枝で刺されるほどの痛み"らしいわ……アハハ……」
「帰れ」
頭をかいて笑っている英玲奈に一言言い放ち、アタシはドラキュラへ歩を進め右手に力を込めると青い光が集まりハリセンの形になった。
「ハーッハッハッハ! 次はそんな武器で何をしてくれるんだ?笑わせてくれるぜ!」
「ふっ、後悔するぜ伯爵……アタシの能力"ツッコミ"は相手がボケてそれにつっこむ度に力が溜まるのさ。アタシのバカ共……仲間達はただふざけてたわけじゃないのさ」
「な、なに!? それじゃわざとバカ演じてたわけか!」
「違うな……アイツらはあれが素なんだ、バカなんだ……でもな、そんなバカ達がどーしようもなく好きなんでな! 喰らえ、みんなの仇!《ハリセン一閃》」
ハリセンを敵の頭目掛け振り下ろすと、ギャグ漫画のようなやられ顔をして伯爵は姿を消した……尊い犠牲を出しながらもアタシ達は勝利を手にしたのだ。
梓……お前の事は忘れないよ……
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「報酬貰ってきたでー!」
黒焦げになった梓を抱え洞窟を脱出したアタシ達は依頼達成をギルドに報告、英玲奈が報酬を貰いに手続きをしてこちらへ戻ってきた。
「いくらだった?」
「えっとなー……150"E"だったわ」
「150"E"……1Eイコール1円だからつまり……150円!?あの伝説が!?」
「せやねー。あずーを復活させるのに【復活の館】に50E、宿屋に泊まるには一人50Eやから……一人野宿やな! ……あ、でもあずー復活させなければいけるで」
「いや、死体泊めてくれる宿屋あるのかよ。てか死んでたら意味ないし……」
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と言うことで梓を復活させ今日は朝泊まった宿屋にまた泊まることに。
「えーあそこの枕、低反発じゃないからヤダー!」
「ワガママ言うなよ梓、なんならお前野宿するか?」
「怖いからヤダー! そういえば誰野宿するの?」
「そりゃこの中で頼りになって丈夫そうな人やろな。そうすると……」
二人がアタシに目を向けているのでいくらなんでもこれは酷すぎる! 抗議する事にした。
「あのな! 梓は自爆、英玲奈は自分のスキルの特徴忘れるわで泊まれるのアタシのお陰なんだぞ! お前ら二人どっちか野宿だろ!」
「ウチ実は"野宿アレルギー"やねん……」
「んなわけあるかー! 梓は?」
「私は野宿イヤ! 寒いし怖いし」
「誰だってそうだから野宿する人決めてるんだろ! アタシは嫌だからな!」
そう言い放つと梓は静かに涙を流し始めた。
「ぐすっ……私っ……怖いのヤダ……野宿……やだ……」
「あー! ちーがあずー泣かしたー! いけないんだー!」
「ちがっ……! てかアタシのせいかよ!それなら梓はいいとして英玲奈が野宿すればいいだろ!」
「ぐすっ……ウチっ……怖いのヤダ……野宿……やだ……」
「真似すんなー!」
◇
こんな調子で現代に帰れるのだろうか……共に飛ばされた残り部員二人、そして先生とも合流できるのだろうか……
「くしゅんっ! ……あーさむ……」
寒空の下、薄いブランケットに包まりそんな事を考えながら翌日を迎え、無事アタシは体調を崩したのであった……
【最新作予告】
趣味を部員と共有する部活・趣味活動部(通称:しゅーかつ部)の部員である長宗我部 ちなみはいつものように部室へ幼なじみで部長の愛川 梓と部室へ入ろうとした所、突然目の前が光り気が付けば異世界へ飛ばされていた。
【四天王と女王を倒せ、さすれば元の世界へ戻そう】
転移先で説明された彼女達は力を授けられるがどれも使えない能力ばかり…
はたして彼女達は他の部員と合流し四天王達を倒せるのか!?そして女王の正体とは…?
趣味活動部のスピンオフ、彼女達が異世界で活躍するギャグメインの物語です。




