七話『ライズレイト』
S級ギルド[四季]を統括するギルドマスター、“ライズレイト”。
燃え盛るような赤髪に右目の眼帯が特徴で、この世界では数少ない単体でのSS級ランクに達する成績を持っている。
そんなライズレイトは今、ラットから受け取った報告書に目を通しながら煙草を吹かしていた。
「滅んだ村に魔族の出現。黒鬼、龍神の鱗、更にはミハテ族の生き残り……。お前のまとめた報告書に目を通すだけでも頭が痛くなるな、ラット」
「申し訳ないっす。ただ、それらは全て現場で起きた事実。一部でも省くことはできないっす」
「その几帳面がお前の良いところだ、中には端折って報告するバカもいるからな」
「ありがとうございます。ただもう一つ、失踪したパーティ―の遺体等ですが見当たらず、その痕跡も持ち帰ることはできなかったっす。なのでそのパーティーが所属していたギルドへの報告はお願いします」
「あぁ、この後にでもまとめよう」
煙草の火を消し、ライズレイトは立ち上がりラットとロイドが座っている前のソファーに腰を下ろす。
そしてしばらく考えた後、ロイドに視線を向け言う。
「それで、魔族デメントと戦ってみてどうだった?」
「人数ではこちらが有利、しかしそれでもデメントは小回りの利く動きで対応してきました。ロンの一撃を受けて尚倒れることはせず、寧ろ凍結の解除すら意図も容易く……。もし冒険者のランクで表すなら、A~S級に該当するでしょう」
実際、決定打すらも防がれ仕留めきれなかった。
それだけでなく魔力の余力も残した上での一時休戦。やはり魔族ということもあり、その身に秘める魔力量は計測しきれない。
立て続けにロイドはこの“捜索依頼”はA級に分類されるものであったが、デメントだけでなくほかの事情も含めるとS級案件の依頼であったことを指摘する。
「なにはともあれご苦労だった。お前たちの無事が一番だからな」
「ありとうございます」
「それで、ロンとそのミハテ族の生き残りは?」
「少し寄りたいところがあるみたいでした。しかし、時間的にもそろそろかと」
かれこれ三十分以上は経つ為、そう長くはないと言いロイドは珈琲を一口飲む。
それから少し談話をしながら待っていると、なにやら一階の方が騒がしいのを感じた。
それが合図のようにライズレイトは『来たな』と一言。階段を上がってくる音が聞こえ、やがてドアがノックされる。
「入れ」
「失礼します。遅くなってすみません、今戻りました」
ドアを開き入ってくるロンと、新しい服装に変わったブレッドが続けて顔を出す。
ラットとロイドはそんな服装を変えたブレッドを見て、『あぁ、なるほど』と言葉を交わさずとも理解する。
しかしその中で、ブレッドに視線を向けるライズレイトは目を細める。
「君がミハテ族の生き残り、ブレッドか」
「……あぁ」
「ラット、ロイド。席を空けて二人を座らせてやってくれ」
どこか口調に重い雰囲気が乗っているライズレイトに、二人は静かに立ち上がり場所を空ける。そしてロンとブレッドは座り、ライズレイトと対面する。
「俺はここのギルドマスターをしているライズレイトだ。ラットの件は世話になったみたいだな、こちらからも窮地を救ってくれたことを感謝する」
差し出される手。
ブレッドはそんなライズレイトの手に自分の手を重ね、握手する。
その際、グググッと強く握り締め返され、とっさに離そうともがく。しかしその力は尋常ではなく、もがく程に増していく感じもした。
「やはりな。お前……感じないな?」
「ッ!」
「マスター、どういうことですか」
「俺は今、相当な握力でこいつの手を握った。だが表情を曇らせるどころか、自分が一体なにをされているのかという疑問に満ち溢れていた。感じないと言ったのは、“痛み”のことだ」
ラットの報告書にも書かれていた中に、瀕死の状態から痛みとダメージを反映させて尚崩れることなく立っていたというものがあった。
ライズレイト自身、ミハテ族の詳細については多少なりとも知っていた。故に、瀕死の状態を自身に反映させた時点でとてつもない反動が襲うはずと疑問視していたのだ。
それは本来、傷が浮かび上がるだけには留まらず意識を手放すぐらいの反動。だがその様子がなかったという時点で、ライズレイトはブレッドの“痛覚”に対して気になった。
「ブレッド、そうなの?」
「……まぁ、そうだな。両親が封印する以前から俺は痛みに疎く、それは物心が付く頃には何も感じなくなった」
「痛みを知らないからこそ、瀕死のラットの状態を躊躇することなく自身に反映できたのだろう。痛覚に疎いとなると、お前はミハテ族の中でも特異体質のようだな」
「痛みは身体に知らせる危険信号の一つ。それを感じないとなると、ブレッドはこの先……」
「ロイドが思っている通り、どこかしらで“破滅”するだろうな。なぁお前ら、ミハテ族の能力が一部でなんて呼ばれているか知っているか?」
「……なんて、呼ばれているんですか」
「――“最も優しく、最も愚かな能力”」
煙草を咥え、指を鳴らして火の魔法で点火する。
ライズレイトの一言で、その場の誰もが静寂に身を包ませる。
誰かを守れても自分自身は守れない、それがミハテの持つ能力の真実。続けてライズレイトは、ミハテの行き先は“朽ち果てる未来”と決まっていると断言する。
「ミハテが辿り着く先は希望なんかじゃない、それは自信が招いた絶望そのものだ」
「マスター、口が過ぎます。控えてください」
「俺は事実を言っているだけだ。そして生き残りとあれば、その事実を受け入れる必要がある。実際どうだ、こいつ以外のミハテ族は龍神と黒鬼の二人を相手に一夜で滅んだらしいじゃないか」
やけに攻撃的な発言が多いライズレイトに対してロンは強く睨みを利かせ、その怒りは自身の身体から氷が浮き上がる程、露わとなっていた。
対してその一触即発となりかねない光景を目の当たりにしているラットとロイドは、あえてブレッドを試しているのだと感じ取る。
自分の代わりに今にも噛みつきそうなロン。しかしブレッドはそんなロンの手に自分の手を置いて、落ち着かせる。
「ブレッド……」
「ライズレイトさんの言う通り、確かにミハテ族はあの一夜にして俺を残して滅んだ。それはきっと、運命によって招かれたものかもしれない。でも俺の辿り着く先が絶望だろうと、果たさないといけない使命が俺にはある」
「ほう、その使命ってのはなんだ?」
「龍神がなぜこの地上を狙った動きをしているのかを知り、それを食い止める。その為にも、デメントや黒鬼が相手だろうと俺は勝てるぐらい強くならないといけないし、死ぬわけにもいかない。もし死ぬ運命が待っているとするなら、それは全てが事を終えたその時のみだ」
ブレッドの覚悟、そして意志はその目に力強く宿っていた。
どうせ死ぬなら使命を果たしてから。そんなブレッドの言葉に、ライズレイトは静かに目を閉じて背中を深々とソファーに預ける。
「ロン、ロイド、ラット。こいつの処遇についてだが、本部には報告しないこととする。一人の冒険者として、お前らのパーティーに加えることを命ずる」
「いいんすか、本部にこのことを内密にして」
「ラット、賢いお前ならわかるだろ。ミハテ族の生き残り、それを本部に言ってみろ。ブレッドはただちに拘束され、研究対象になりかねない。下の連中にも適当に説明しておけ、決してミハテ族だということは明かすな」
「わかりました。そうとなれば、ブレッドの世話役はどうしますか? まだこのフューメイト含め、色々教えないといけないですから」
「あー、まぁそこは言わずもがな決まってるだろ。なんせ俺に噛みつこうとしたんだからな。なぁ、ロン?」
ライズレイトに嫌味を突かれながら見られるロンは、そっぽ向いて誤魔化す。
それからもう少しだけ談話を続け、ライズレイトはブレッドのことを知り、その場はひとまず解散という形になった。




