番外編 柱となり支える
時は山ン本が雲外鏡と対峙していた頃まで遡る。
現場に到着して、俺は改めて被害の規模を実感した。
「ひでぇ、こりゃ一刻も早く妖怪を倒さねぇと。」
水瀬が周囲の瓦礫を避けながら歩いていると、ふと、背後から風を切るような音がした。水瀬の細胞が警鐘を鳴らす。
「【己岩壁】!」
地面から隆起した壁が背後から飛来した物体に激突する。土煙が上がる中、顔を覗き込むと、壁には一本の柱が突き刺さっていた。
「流石陰陽師。中々やるではないか。」
土煙の更に先、ひび割れ隆起した道路の上に一つの人影が見えた。
それを確認した直後、二人の陰陽師が人影へと駆け抜ける。
「合わせろ!【丙炎蛇】」
水瀬と同じチームになった二ツ星の花田と三ツ星の股藤が共に蛇のようにうねる炎を放つ。
「【隔棍】」
地面から三つの柱が横並びに伸び、大きな壁となる。炎は柱の壁に衝突するが、表面が焼き焦げるだけで、柱を焼き切ることは出来なかった。
「【壬海辻】!」
水瀬は逆柱の隙をつき、【癸水流】
で生み出した水流で背後に回り込み、印を結ぶ。同時に水の塊が生み出され、刃の形に形成される。そして、逆柱の背に向かって風を切りながら飛来する。
「気づかないと思うたか。【伸棍術】」
合わせた両手をゆっくり離していくと、手に収まるほどの直径サイズの柱が創り出されていき、さながら棍棒のような形に形成される。
逆柱は、棍棒程の大きさに創り出された柱を手に持ち、手首のスナップで水の刃へと打ち付ける。ドパンッという衝撃音とともに、水の刃は形を失い、水飛沫となって散る。
そして、逆柱はそのまま体勢を変えると、水瀬に向かって柱を振り下げようとする。
(五メートルは離れてるんだぞ、一体何を――)
振り下げる直前、逆柱の手に持つ柱が瞬時に伸び、先端が水瀬の頭上の位置まで伸びる。
「嘘だ――」
そのまま振り下ろされた柱は、水瀬の頭をかち割り、水瀬は地面に倒れ込む。そして、そのまま意識が深い水の底へと沈んでしまった。
「あと二人だな。纏めて終いだ。【慈棍】」
空間から、円の直径十メートルはあるであろう巨大な柱が創り出され、風圧を突き破りながら猛進する。
「【戊土城】!」
「【庚鋼鎧】!」
分厚く、見上げるほどの土の壁。鋼のように硬質化した装束。二人は、各々の得意属性でできる限りの防御を取るがそれも虚しく、柱によって土の壁は容易く砕け散り、鋼さえも潰れんとばかりの威力で、二人は建物を背後に押し潰されてしまった。
「存外呆気ないものだな。さて、仲間の元へ合流するか……誰だ?」
逆柱が戦闘の音がする方へ歩き出そうと視線を向けた先、一人の男がこちらに歩を進めているのが見えた。
「まだ残っておったか。」
「……」
「【慈棍】」
「【癸海辻】」
壁の様な柱は、縦向きに飛来した柱よりも巨大な水の刃に容易く切り裂かれ、男の目の前で二手に別れ、それぞれ建物に衝突し土煙が舞う。
「お主、中々やるな。」
「……【憑依札・川天狗】」
男は札を取り出し、印を結ぶ。すると、男の身体が淡く光だし、装束に波のような紋様が浮かび上がる。
「【流終】」
男の目の前の空間から、直径十メートルは優に超える円柱型の激流が生み出される。
「っ、【慈棍】!」
すかさず柱を創り出すが、激流は柱を瞬く間に飲み込み波の中で砕け散る。
「……呆気ないな。」
逆柱はそう言い残すと、激流は逆柱を飲み込み、空に昇り、弾け、水飛沫となり、地面に降り注いで消えた。そこに逆柱の姿は既に無かった。
「……やはりアイツには荷が重い。」
男は次の現場へ水流に乗りながら去っていった。