七話 流星
「なんで、俺の名前を知ってるんだ?」
急に現れた妖怪に戸惑いながら、率直な疑問を問う。
「それは魂が繋がってるから!私と山ン本様との絆は切っても切れないくらいですよ!」
(なんかテンション高いな…)
その温度差に呆気を取られていると、軍服の男が声を荒らげる。
「山ン本だと、もしや山ン本五郎左衛門か!」
「一目見ればそれくらい分かるだろ!星熊童子も目が腐ったか。」
「星熊童子?」
二人は顔馴染みなのかもしれないと思い、翼の妖怪に問いかける。
「はい、奴は妖将の一人、星熊童子。自分勝手な屑ですね。」
「言ってくれるではないか、私は今、機嫌がすこぶる悪い。手加減は出来ないぞ。【屑星】」
人ひとり分よりも大きな結晶が創り出され、射出される。烏天狗は結晶に向かって数歩前に出ると、刀の刃先を結晶に添わせ、僅かな動作のみで結晶の軌道を逸らし、結晶は背後のビルへと衝突する。
「流石に天狗は骨が折れる。」
「私は百年前に誓ったんです。もう二度と、山ン本様に恥をかかせないよう実力を手にすると。」
烏天狗はそう言いながら得意気に俺の方へと振り返る。
「山ン本様、奴の能力は結晶の創造、妖力の込めた総量で強度が変化します。現在の奴の実力では、通常で金剛石より硬いので基本破壊は不可能と思って頂いて構いません。」
「妖将はこんなにも格が違うのか。」
「安心してください、私が奴を打ち倒してみせます。」
俺を気遣いながら星熊童子へと向き直る。
「背後を守ったままで、本当に倒せるとでも思っているのか?次でお前達諸共殺し――――そうか、全く使えない奴らだな。直ぐに戻る。」
途中まで俺らと話していたはずの星熊童子は何やらブツブツと独り言を話し始めた。
「何を言っている。」
「撤退だ。屑共のせいで作戦が失敗に終わったようだ。私は戻る。」
「何言ってんだ、逃がすわけが――」
「いえ、ここは行かせましょう、今の状況では、奴を倒すことは難しいでしょう。」
「はっ、懸命な判断だ。見逃して貰えること光栄に思うが良い。」
星熊童子は内ポケットから、手に収まるほどの大きさの行燈を取り出す。ステンドグラスのようなもので作られており、中では青い炎が揺らめいている。それを星熊童子は片手で砕いた。すると、青い炎が星熊童子の身体を包み、炎が収まった時には、既に星熊童子の姿は無かった。
「俺は弱いな。」
「そんなことありません!あの頃の勇ましさを想起させる程の気迫、山ン本様は人類の希望です!」
(初対面の人にこれだけ褒められるとさすがに照れるな。)
「それで、山ン本様に提案がございまして、私の仲間達の待つ拠点へといらっしゃいませんか?」
「あぁ、俺もあなた達のことについて知りたいことが多いから是非お願いしたい。けど、先に陰陽署に報告に行ってからでも良いかな?」
「もちろんです!では明日、山ン本様のご自宅へと参ります!」
前世の俺と烏天狗の関係への疑問が尽きないまま、飛び立つ烏天狗の背中を遠目に眺めた。