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ジャック・フランドルの記憶


 凍てつく様な冷たさは、全身を突き刺す痛みだった。

 もがき苦しみ、大声で叫びたいが痛みが強すぎるのか身体を動かす事も、声を出すことも出来ない。

 苦しみに疲れると次第に痛みを感じなくなった。


 ああ、やっと俺は死ねたのだと安堵した。



 頬に温もり感じる。まるで母が子を愛でるように撫でる。この手は誰だ?

 そうか、幸いにも俺は天国へ行けたようだ。

 そう言えば、天使とはどんな者なのだろうと興味が湧いて目を開けた。

 

 だがここは天国では無かった。忘れていた強烈な吹雪の音、寒さと痛み。

 まだ死んでいない、俺は生きている喜びよりも、忘れたかった痛みと苦しみにまた絶望した。


「大丈夫よ。落ち着いて息をして」


 見たこともない美しい女性が、俺の頬を撫でながら話しかけている。

 返事をしようとするが、俺は呼吸が荒れて喋ることが出来なかった。


「大丈夫、あなたは助かるから安心して眠っていいよ」


 彼女の言葉は魔法の様に俺を落ち着かせた。凍った身体に暖かな血がゆっくりと巡る。不安は消え去り、言われた通り穏やかに眠る事ができた。



※※


 俺を温める様に寄り添ってくれた女性は誰だろう。

 まだ俺の腕の中にいる彼女は命の恩人だ。

 眠りから覚めると身体が自由に動くのがわかった。俺を抱きしめて眠る女性の顔を覗くと、それはマリオ・ガーランドだった。


「!!?」

 

 俺を助けたあの女性は?幻覚だったのか?

 しかもよく見ると俺たちは服を着ていない…。

 まさか、あのマリオが夜通し俺を裸で温めていたのか…。友情に感謝はするが、すごく言葉に出来ない微妙なこの感情はなんだろう…。


「…もしかして、俺たちは……一線を越えてしまったのか…」


「おはよう!調子はどう?」


「!!!!」

 

 後ろから女性の声がし、振り向けば、俺を助けた彼女だった。

 全く気配を感じ無かったので自分の独り言を聞かれてしまい、また先程とは違う何とも言えない感情になった。


「はいどうぞ、あなたの服ね。乾いたよ」


 差し出された自分の服は、暖炉前で乾かされてほのかに暖かい。

 俺はすぐに着替えて改めて彼女に礼をし、マリオが起きるまでお互いの話をした。


 彼女の名前はアリア。苗字は無く、この小屋で生まれたが両親は居ない。2年前に他界した祖父と暮らしていた。アリアは祖父と同じく狩人として育てられた。

 祖父は無断で父の領地に住み、隠れながら暮らしていた。彼女は祖父以外の人間と話した事が無かった。

 アリアとは様々な話をした。俺はあまり感情豊かでは無いし、マリオやアレンの様に人を惹きつけるような喋りは出来ない。

 でも、アリアは目を輝かせ夢中で俺の話を聞きいてくれた。俺も彼女の話しは冒険記のようで興味深く聞き入っていた。



 ※※※



 私は、今でもあの時の思い出を忘れないだろう。

 最初で最後の誰にも邪魔されずに過ごした2人だけの時間。

 許嫁は既にいたが初恋と言うものを彼女で経験した。彼女への想いは誰にも知られてはいけない。実のらない恋なのは承知していたが、命の恩人でもあるアリアは私にとって女神のような存在だった。

 それに純粋に友として側に居いて欲しかった。身寄りの無いアリアを暫く別邸に招いた。

 彼女は山に帰りたがったが、マリオとアレンも彼女に惹かれていたので、私たちは引き留め暫く住まわせた。


 私の罪はあの小屋から彼女を連れ出してしまった事だ。


 アリア、私は君に赦されたい。


 身勝手だったあの頃の自分を赦してくれ。

 どうすれば私の罪は償えるのだろうか。

 マリオ・ガーランドの様に壊れて、私も修羅の道を歩めば良いのか?

 教えてくれアリア、君が望めば私も何だってする。

 君に助けられたこの命だって差し出せるんだ。


 君を守れなくて、すまない。

 でも、必ずあの子達は私が守ると誓うよ。



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