待つ者の辛さ
電蔵は目を丸くして、言葉を反芻した。信じられないといった様子で、電蔵は暫く状況を呑み込めずにいた。漏れ聞こえてくる王様の嗚咽も、電蔵には何がなんだかわからないのだろう。
『わしが救世のメスならば、お主は破滅のオス……。お主は帰ってきてはいけない……もうわしらは……会うことすら許されないんじゃ……お主が来れば、ブラックスフィアは消える。ゲームも終わりを告げるんじゃ』
電蔵と王様は、またしても運命を共にすることができない。ブラックスフィアの神は、電蔵と王様の仲を引き裂く。世界すらも終わらせようとしている。
「……オレは帰っちゃいけないって……本当にそうなのか」
電蔵の様子がおかしいことに気づいたのか、胸倉を掴まれたままの友青が喋る。
「なんなんだよ、一体」
ゲホゲホと咳き込んで、電蔵を睨む。電蔵はパッと手を放して、友青の目を見た。
「帰ってくるなだと。どうやら随分ブラックスフィアには嫌われているらしいな」
「ふーん。ずっと日本にいればいいんじゃね? ジジイも家くれるって言ってるし」
「いや……オレは……」
電蔵は辛そうに歯噛みした。
『悪いが、暫く帰ってこないでくれ……』
「無理だ。オレはもう、力を抑えられない。オレがこの力を意図せず解放してしまったら、日本どころか、こちらの世界を巻き込むことになりかねん。そしたらどう責任を取れって言うんだ! 王様は……オレが本当に破滅のオスになってもいいのか?」
ブラックスフィアが滅んでしまうかもしれない。それはどちらもわかっている。だが、王様の判断は間違っている。ブラックスフィアを滅ぼすほどの力を持った電蔵が、どこにいても同じこと。どの世界も滅ぼしてしまいかねないのだ。目先のことに戸惑い、目的を見失っている。王様は責任を放棄しようとし、日本を、地球を巻き込もうとしている。
正常な判断ができていない。
「……王様。オレを殺すしかない……!」
電蔵がそう言った途端、空気が凍りついた。友青の目も凍る。
『嫌じゃ。嫌じゃ! お主は殺したくない! わしの最愛の息子なんじゃ! 雷貴よりも……お主のことが好きなんだ! 大好きなんだ! 絶対に手をかけたくない!』
「最後まで我儘を言うな! 全く、呆れた王様だな……。オレが死んでも、お前さんは生きろ。生きていれば、また生まれ変わることもできるだろ? オレが生まれ変わるまで、待っていてくれよ」
『もう待ちたくない! お主は、待つ者の辛さを知らんから、そんなことが言えるんだ! お主を生むまでどれだけの年月が経ったと思っておる! バカモンが!』




