封印が弱まってきている
「静電気? そうか……限界なのか?」
電蔵はズボンのポケットに触れた。カードに封印されし電蔵の力が、徐々に強まってきている。封印の力が弱まっているのだ。
つまり、王様の力の強さと電蔵の力の強さが逆転しつつある。
雷貴として生まれた頃よりも、もっと強くなってしまう。そしたらブラックスフィアはどうなるのか。電蔵の力はなんのためにあるのか。王様の涙の意味が、明かされる頃には電蔵の役目が果たされてしまうのか。
電蔵は自分の手をじっと見たまま、何も喋らなかった。
「おい」
「ん?」
「後ろ。詰まってるぞ」
友青が後ろを振り返ると、電蔵もそちらを振り返る。順番待ちをしている児童らがたくさんいた。
「……すまない。少し考え事をしていた」
「こんなとこで考え事かい? そんなに悩むほど品揃え豊富でもないんだけどねえ」
四十代くらいの女性が、電蔵が頼んだ紙パックのジュースを差し出す。電蔵はそれを受け取って軽く笑った。その笑い方は哀愁が漂っている。
「そうか。だが、お前さんたちの顔は豊富だな」
ずらりと横に並ぶ多種多様の顔を見て、電蔵が放った言葉。貶しているようにも聞こえるが、女性たちは顔色を変えなかった。まるで言われ慣れているかのような対応。
「そうかいそうかい。それはよかった」
「ブーちゃんからガリちゃんまでいるからねえ~」
「……人間は、本当にいろんな顔があるんだな」
魔種として生まれた電蔵たちの顔には種類があまりない。色はこの世界よりもたくさんあるが、全てが循環しているブラックスフィアでは、オスもメスも似たようなものが生まれる。だから何度も生を受ける種もいるのだ。雷貴や電神のように、同じ姿でまた違った生を歩むこともままある。
「おかしなことを言うねえ」
「あら、ホント」
「……変な子ね」
段々と目の色が変わってくる。よからぬ色へと。
電蔵はハッとして口元を覆った。異世界の者としてこの世界の者を見てしまう。そんな電蔵の言動が異質だと周囲の大人は気づくのだ。頭のいいこどもも。
「……すまん。オレは……口が過ぎるようだ」




