愛くるしい生物と出会うムューユ
同じ場所をくるくると走り回る生物を目で追っているものの、顔つきは深刻になっていった。
生物はしっかりとムューユの姿を瞳に映していた。
「キュ」
「うーむ。可愛い……連れて帰りたい……」
「キュキュ」
「わしの言葉に反応しとる?」
「キュキュキュ」
「ピカピカに掃除してくれそうな音じゃな」
「キュ」
生物が首を傾げるように身体を傾けた。ムューユの言葉がわかる生物。
先程王様が、頭がかゆいと言っていた。それとは関係がないのだろう。この生物はこの世界に存在しているものではないと断言できる。なんらかの方法でこの世界に来てしまったのだ。
すり抜けてしまうのは、多少疑問が残るが。
「お主、どこから来た?」
「キュ」
「ブラックスフィアの言葉はわかるんじゃな」
「キュキュ」
「キュの回数は何を意味するのか。さっぱりわからんぞ。電蔵、電蔵。やーい」
口の両端に手を添えて、ムューユは大声を出す。メガホンを使ったところで、電蔵はここへは来られない。庄時の不安定な術でここへ来てしまったのだから、二度同じ世界へは来られるはずもない。庄時の所在もわからないのに、どうすることもできない。
「……電蔵……」
なんの前触れもなく、生物は突然二足歩行になった。まるで人間のように。それから、あの懐かしい声がつぼみのような小さな口から出た。
「ふん。相変わらず面倒なメスだ」
「その声は……!」
「久方ぶりか、救世のメス。ざっと百年クラスか」
「な、お主。雷貴か? なんじゃ、その姿は」
「我にもよくわからんことだ」
「あんな邪悪な雷貴が……そんな愛らしい姿になりおって……ふはっ、いたわしい……」
「笑っているな、笑っているだろう。もうお前を殺すしかあるまい」
生物の雷貴は、ムューユの肩が震えて声を出してしまったことを見逃さなかった。




