雷貴とムューユの勝負
城内は蛻の殻……ではなかった。そこには赤桃色の長髪をなびかせた者がいた。
現在の王様、ムューユ・パルヒャネラだ。髪は括っていない上に、背も更に低い。ボロボロの布きれを羽織っていて、肌も灰でくすんでいる。
『雷貴。まだ私が生き残っているよ』
話し方も声色も若い。恐らく、百年以上前の出来事なのだろう。
『……何? お前は……』
『私はムューユ・パルヒャネラ。私はちょっと特殊で、お前の力にも当てられることはないよ。お前の考えたゲームというのは面白いな。……しかし、戦争か……。戦争は悲しい。私はあまり好きじゃない』
『それがどうした』
『私が新しいゲームを考えよう。もっと面白いゲームだ』
『聞く耳持たん』
『まあそう言うな。誰もお前を殺せはしないさ』
ムューユはニコッと優しげな笑みを見せた。
『……話はそれだけか。ならば、消えろ』
『だから、言ってるじゃないか。私は力で消されることはないと。突然変異を知らないか? 私はオスを生み出せるんだよ。その代わり、大きな力はない。戦いには向かない』
雷貴はピクリと眉根を動かした。戦えないメスであれど殺すのに、何故か。
『……突然変異?』
『そう。私はブラックスフィアに愛された存在。救世のメスとして名を馳せることになるだろうね。母として、この世界に君臨すべき存在なんだよ、雷貴』
『そのおかしな名には、意味があるというのか』
『おかしな名とはなんだ。可愛いだろう?』
『馬鹿な!』
雷貴が笑い飛ばせば、ムューユはムッとした。
『お前と私で勝負をしよう。私はお前を殺せない。お前も私を殺せない。ならば、どちらも頂点に立てるということだ。お前と私は記憶を消し、あるべき姿に戻るんだ。この時代を知らない者になる。私とお前、どちらがこの世界を支配するに相応しいか……ゲームで決着を付けようではないか』
『そんなものに乗るとでも?』
『乗らないのか? それは面白くない。お前はゲームの王様になるのだろう?』
『そんなつもりはない』
『それなら、私に譲れ。私がゲームの王様になる』
ムューユが横柄な態度で手を出す。




