覆水盆に返らず
「オレが小学生じゃなくて、何がいけないんだ。何も悪いことなどないぞ? 小学校にでっかくて古いお兄さんが来ても、損することなんかないだろう。金だってがっぽりふんだくれる。経営者は大喜びだ。目がドルになるぞ」
「開き直るなって」
「やっぱり電蔵、小学生じゃなかったんだ」
「いけないんだー。ちゃんと高校行けよー」
「見た目で言えば、オレは高校生なのか。へえ」
「高三くらい?」
友青が電蔵にそう言うと、クラスメイトたちが電蔵にこっそりと耳打ちした。
「ねえ、なんで話に入ってくんの?」
「少年が、か?」
「なんかウザイ」
「そう言うな。お前さんたちと仲良くなりたいんだ」
「電蔵とだけ話してるじゃん」
「コミュニケーションが下手なんだ」
電蔵たちが内緒話している様子を、苛々しながら友青は眺めていた。
「……んだよ……。言いたいことがあるなら……面と向かって言えって」
「仲良くなりたいなら、こっちに来て話せ。じっと座ってないで、こっちに来い」
電蔵が手招きして友青を呼び寄せる。
「仕方ねえな……」
友青が席を立つと、電蔵の周りにいたクラスメイトが散っていく。友青から逃げた。
「……ふぅ」
電蔵が困ったように息を吐いた。彼らは友青と仲良くしたくないのだろう。
残酷な仕打ちに、友青は唖然とした。一度壊れた人間関係を修復するのは、不可能なのか。覆水盆に返らず、人は他者を退け、人を惑わせるのか。深い傷を刻むのか。
「…………」
「お前さん、随分嫌われてるな」
口も利いてもらえないというのは、言葉も交わしたくないということ。
友青が何をしたのか、電蔵は気にかかっているようだ。
「オマエが余計なことしたから……また俺は……」
「そうだな。その通りだ。オレはもう余計なことはしないようにする」
「……そ、そんなつもりじゃねえ……」
「どんなつもりだ?」
「ありがとよ」
「ああ……いいぞう」




