だが今日から十二歳と嘘をついている
項垂れる電蔵が想像している王様と、クラスメイトが想像している王様は全く違うことは明らかだ。きっと、大富豪な王様を思い描いていることだろう。
「だが、王様になるのも一苦労だぞ」
「なったら豪華な飯食えるんだぞー?」
「一生遊んで暮らせるし、最高!」
王様になれば豪遊できると思っているクラスメイト。日本人が王様になれる確率など、万に一つもないのに。天皇が実質王様のような立場であろうか。あるとすれば、海外の姫と結婚して、その跡継ぎとなるか……の道一つだけ。
逆玉の輿できる可能性も限りなくゼロに近い。
ましてや、鼻水垂らして阿呆なことをやっているこどもは相手にされないだろう。
目の前に王子がいることにも気づかない。電蔵も正体を明かさないし、フレンドリーに接するのみで、深くかかわろうとしない。
「王様に一番近いのは、オレか……」
顎に手を当てて、電蔵はボソッと呟いた。穏やかな笑みで、優雅な雰囲気を出す。
友青は電蔵の育ちのよさそうな雰囲気に、首を傾げる。
聡いこどもである友青には、電蔵の常人ならざる雰囲気を僅かに感じたのだ。
どんなに汚い言葉を使っても、育ちのよさは隠せないのだ。気品と品格が溢れ出てしまう。それが自然と外に出てしまう。それを電蔵は全く気づいていない。電蔵にも、他の者と違わぬ生来の品性があるのだ。ロイヤリティ漂う、優雅なオーラを醸し出している。
それを見抜けるのは、容易いことではない。
「あいつ……」
さっきの台詞といい、仕草といい、友青には引っかかることがあった。
――王様か。
その言葉が自身の周りにいる者だとすれば……、どうなる?
「紫水って……王子……なのか?」
確実ではないので、友青の言葉尻が疑問に変わる。電蔵は目を丸くしていた。
「……なんのことかなァ」
あからさまにおかしな口調ではぐらかそうとしている。口笛まで吹いて、手をポケットに突っ込んだ。全く嘘をつけない電蔵らしい仕草だ。
友青はジトッとした目で電蔵を見た。
「……オマエ、騙し打ちとか苦手そうだな」
「騙すのはよくない」
至極真っ当な意見を言ったので、友青は返答できなかった。




