泥でできた助け舟
「それにな。仮にも同じ人間が、他者を物扱いしてはいけないぞ? お前さんがもし、誰か好きな人間に物扱いされたらどう思う? 嬉しいか? お前さんは今日から人間じゃないぞ、って言われたら……悲しくはならないのか? ん?」
電蔵はクラスメイトを諭すように問う。クラスメイトたちは俯いて、黙り込んだ。
「悲しいよな」
電蔵が再び問いかけると、クラスメイトたちはコクリと頷いた。
「だったらお前さんたちもしないようにしなきゃな。あの少年のことが嫌いでも、物扱いはやめるんだ。ちゃんと一人の人間として、接するようにすれば……ちょっとくらい、いいところが見つかるかもしれん」
「せっするって何?」
「ん……そうだなあ……応対する?」
言い換えると余計に難しい言葉になってしまい、更に深堀の質問を食らう電蔵。
「電蔵って絶対、小学生じゃないよね」
「そんな難しい言葉知らねえし」
「少年なら知ってると思うぞ。そら、見ろ。こっちを見てる」
ん、と顎を突き出し、友青の方を見た。クラスメイトもつられている。交錯する視線。睥睨するクラスメイトたち。電蔵の泥でできた助け舟が、友青を苦しめる。
友青はうっと唸った。
「対応の対語だろ……」
「ついごってなんだ」
電蔵が訊ねる。
「反対になってる語ってことだろ?」
難しい言葉を知っているが、友青の答えは間違っている。「ついご」または、「たいご」は語句の意味が反対になっている語として認識されている。対義語と同義。この場合、対応と応対は入れ替えた語なので、間違っているということである。それを正せる知識を持った者はいない。
先生ですら、説明することができないようだ。国語の先生ではないことが原因か。
「とにかく、オレは難しいことはよくわからん。訊くなら、少年に訊け」
「えー。やだ」
「我儘を言うな。王様か」
最早口癖になっている。王様が好きすぎる電蔵だった。
「いいよなあ、キング! カッコイイぜー」
「惚れるよなあ」
「そうか……お前さんたちはああいう王様が好きなのか……」




