友青は電蔵の友達
友青は人知れず声を漏らす。いじめられる理由も、ともすれば理解できるはずなのだ。
こどもは他者の気持ちに敏感。自分たちが見下されているとわかれば、蔑むのも無理はない。
そんな友青の気づきをよそに、早速電蔵はクラスメイトに絡まれていた。
「今日から十二歳だって~」
「紫水くん面白いー」
「電蔵でいいぞ」
「電蔵でいいぞう?」
男子がからかうと、電蔵はノリのいいお兄さんのように、返事をした。
「そうだぞう」
丁寧に象の真似までして、クラスメイトを楽しませた。電蔵は誰とでも仲良くなることができるのだ。根は明るく、素直で快活だから、大多数に好かれる。電蔵が好かれていないのは、能力の高さゆえだ。能力がなければ、嫉妬に狂った奴らに嫌われることもなかっただろう。
持っている者ゆえの悲しみは奥深く、心は深淵に沈む。
持っていればいい、なんて単純な考えは、捨て去るべきなのだ。嫉妬の炎に勝ち続けられる精神力があれば、そんな考えを持ち続けてもいいかもしれない。人間は儚くも美しいが、恐ろしい生き物。
電蔵を見ていればこう思うようになる。才能は少ない方がいいのだ。
完璧を求めてしまうようになれば、苦しい。失敗を受け入れられなくなる。
電蔵は笑っているが、そんなことを胸のうちに秘めているのだ。微かに、疲弊の色が見て取れる。
「なー、電蔵。お前さー、あれと友達?」
「あれ? あれとはなんだ。物か?」
「あれだよ、あれ」
クラスメイトが指を差したのは、友青だ。友青は人間扱いされていない。
友青が驚いて顔を上げると、電蔵がじっと見つめた。友青は心臓の辺りを押さえた。何を言われるのか、脅えた表情で。
電蔵は友青の気持ちを察したような目をして、クラスメイトにはっきりと言った。
「友達……そうだな。友達だ」
「ええーっ! まじ? あれと友達とか……」
「やめた方がいいよ。あんなのと友達になったら……電蔵までいじめられるよ?」
「いじめか。そんなのには慣れている。お前さんたちが気にすることじゃない」
電蔵はしゃがんで頭をポンポンと撫でた。女子が喜んでいる。




