転校生の電蔵
「おう。宜しく頼むぞ、おっさん」
先生の後ろをついてきていたのは、電蔵だった。紫水電蔵。彼は見た目こそ青年なものの、実年齢はそれ以上。そこにいる先生とほぼ変わらない年齢なのだ。
「え、ちょ。待てよ、そいつ……」
「よう、少年。昨日ぶりだなァ」
電蔵は気さくに話しかけた。手まで振って知り合いであることを猛アピールしている。友青は顔を逸らして他人のふりをしている。しかしクラスメイトの視線は正直だ。友青が電蔵と知り合いであることを確信している。
クラスメイトたちは口々に話し出す。電蔵を見ての感想だ。
「どう見ても小学生じゃないし」
「でかすぎ」
「でもカッコよくない?」
カッコイイというのは、無論、女子の台詞だ。電蔵は女性に好まれるような容姿をしている。友青はチッと舌打ちした。いきなり来た電蔵が人気者で、気に入らないのだ。
「なんであんなのがいいんだよ……」
背が高くて細長い感じで、線も細めの男。優男という表現が正しいだろう。友青はそれとは正反対といってもいい。背が低いのにがっしりしていて、濃い目の顔をしている。その割に喧嘩は弱いし、勉強はできない。運動も苦手だ。いいところが全くといっていいほど、ない。
このように、持っていない人間からすれば、電蔵は全てを手にしているように見えるのだ。憎くて仕方がないくらいに、何もかもを手にしているように見える。
電蔵が先生に言われて、自己紹介をした。
「オレは紫水電蔵。歳は……今日から十二歳だ。宜しくな」
言い方に引っかかる一同。今日から十二歳になるらしい。今日まで幾つだったのかという話になった。電蔵はそう話してしまったことに後悔し、後頭部を押さえた。
「やってしまった……」
電蔵が思いの外阿呆だったので、友青は優位に立ったとガッツポーズをした。
勉強はできないが、友青はクイズや謎解きなどが得意なのだ。実は頭がいい。落ちこぼれと称されるほど落ちぶれてはいないのだが、本人は自身の名にそぐわない生き方をしているため、そうだと思っている。友達もいない、青春もしていない。したいのにできないことは、たくさんある。
しかし友青はそこでふと気がつく。この捻くれた性格が、他者を遠ざけているのではないかと。他者を見下すこの感情。これが最大の理由ではないかと。
「俺が……悪いのか……」




