自分の殻を破る
「虫が喋るわけないだろ?」
「だよなー。やっぱ、勘違いだな!」
「俺は虫なんかじゃねえし。単細胞なのはオマエらの方だろ!」
怒り狂うように叫び、友青は男子たちに殴りかかった。一発目は綺麗に入ったが、取っ組み合ってからの殴り合いの喧嘩には負けた。だが、友青は満足だ。初めから負けるよりいい。これで勝てるだろうか。現実に負けていないだろうか。
顔も身体も痣だらけになって、服もボロボロ、髪もぐしゃぐしゃになった。
そして呼び出されて先生に怒られる。その後に先生に事情を説明すれば、友青の言い分を聞き入れてくれるのだ。先生が味方になってくれるから、友青のいじめも終わらない。友青もそれをわかっていて、先生に甘えている節もある。
依怙贔屓だと男子たちはぶつぶつ文句を垂れていた。
手を出した友青が悪いが、原因は男子たちにある。なので、文句は言えないはずだが、小学生は基本的に感情で動く。理屈を説明したところで、理解しようとしない。理解できるやつは、初めからいじめなどに加担しないのだ。噛み砕いて説明しなければならない。それを説教だと受け取り、聞き入れようとしなかったりもする。
こういったいじめっ子は、先生たちの手に余っているのではないだろうか。
「……先生。助けてくれてサンキュな」
「おう。今度は殴らないように。言葉で勝負するんだ」
先生は拳をぎゅっと握り締め、ガッツポーズをした。
「……でも男は、喧嘩が強くなきゃ女にモテないんだろ?」
「じゃあお前はモテないな。もっと強くなれ!」
先生は豪快に笑って友青の肩を何度も叩く。力強く叩かれ、友青は肩を押さえて呻いた。
「おっと。悪い。まあ……なんだ。頑張れよ!」
「……そうだな……頑張るぜ」
力のない笑みを浮かべて、友青は先生の拳に拳を当てた。
友青が教室に戻ると、クラスメイトが恨みがましく睨む。友青は少しばかり怯んだが、持ち直す。拳を握り締め、自身の席にドカッと座った。もうクラスメイトの視線など気にしない、と言わんばかりに。彼は強くなったのだ。いじめにも負けない強い男になる。もう落ちこぼれから脱するのだ。
「俺は負けねえ……」
負けじとクラスメイトを睨み返した。クラスメイトは友青の反撃に驚きを隠せない様子。
目力で相手を怯ませる競い合いが行われていたところ、先生が教室に入ってきた。
「今日は転校生を紹介するぞ」




