酷いいじめ
下駄箱に向かえば、春川友青という名前が消されていた。微かに字は残っているものの、心にもない酷い言葉が書かれていた。単細胞、バカ、アホ、マヌケ、消えろ、クソといった言葉だ。死ねと書かれていないだけ、まだましかもしれない。何故未成年というだけで罪にならないのか。それが友青には不思議でたまらなかったのだ。
「なんで……俺が何したって……」
上靴もなくなっていて、ゴミ箱に捨てられていた。周りの人間を見れば、ささっと身体を隠すように、逃げる。私が犯人です、と言っているようなものだ。
友青はゴミ箱から上靴を取り出した。なんとも言えぬ臭いがする。これはゴミ箱のゴミから漂ってくる悪臭が染みついたものだ。友青の足の臭いではない。
「くっさ」
鼻を摘んで自身の上靴を二本指で摘み上げる。それを床に置いて、履いた。トントンと靴を揃えて、下駄箱を後にする。
長い間行っていなかったとなると、自身の教室すら忘れるものだが、友青は覚えていた。嫌なことがたくさんあった場所だ。そう簡単に忘れることなどできない。
六年三組に着いた。引き戸を開けると、クラスメイトが一瞬こちらを向いて、ひそひそ話を始め出した。全て友青に対する悪口。勘繰っているのではなく、実際にそうなのだ。
友青は自身の机を探す。だが、見つからなかった。クラスメイトの男子が机の上に座っていた。友青の机だ。暫く使われていないはずの机に、落書きされたり、ゴミを置かれたりしていた。
「でよー。そこでアシュラ怪獣がやってきて……」
「まじで? おおっ、スゲェ!」
「続きは?」
「ドガーッて町をぶっ壊すんだ! 凄くね?」
友青の机の周りに男子が群がっている。楽しそうに会話して、友青を無視している。まるでそこにいないかのように、ぞんざいな扱いを受けている。この間までいなかった人間だ。いなくとも機能している。その程度の存在。
いつもの威勢がなくなり、友青は肩を落とした。
「何が友達だ……何が青春だよ……」
小さな声で、両親につけられた名前の意味を詰った。そんなもの、一度たりとも手に入れたことがないのに、綺麗事を並べる親。綺麗事を言っておきながら、自分たちは悪いことは平気でする。こどもを放置して、友青の悩みも聞いてくれない。周りの人間が全て嫌で仕方ないのだ。
友青は怒りを押し殺すような声を出した。
「……どけよ」
「……なんか、虫が喋った気がするぜ」




