それが愛
「ほう。それで」
「かぶりつきたいと思った。少年心にな」
「しゃぶりたいのではないのか?」
「しゃぶってもらいたいのは、アソコの方よ」
久三は笑い話に持っていく。喜々として嫌らしい話をするので、久三もまだ現役だ。
「それを聞いたら、嘉世婆さんは怒るんじゃないのか?」
「わしが浮気性なのを知っていて、嘉世子は一緒になってくれた」
「器のでかい女だな」
「おっぱいは小さいが」
「妻のことを悪く言うなよ」
愛しいから何を言っても許されるというわけでもない。配偶者に対する悪口ほど、悲しいものはないのだ。
自分が言われてもいいから言うのではなく、思っていても口にするべきじゃない。口にせず、どこかで書き記す。妻と公言せず、他人として。プライバシーを守るために。
そうすれば、衝突も少なくなる。耐えるくらいなら、一緒にいない方がましだ。言葉で傷つけるくらいなら、書く方がましだ。そうしたら誰も傷つかずにすむ。
誰しも思うことはあっても、寛容な心を持つことが大事なのだ。それが大人に課せられた義務。電蔵だって、そのことはわかっているはずなのだ。
なんでも口にしていいわけじゃないこと――。
「おっぱいは小さいわ、皺だらけだわ……重い病気にかかるわ……。本来のわしなら、介護するのも嫌になるくらいじゃ。しかしな……嘉世子にはたくさんの幸せをもらった。人を愛したいと思う気持ちをな。色んなことも教えてもらった。それが今でも忘れられん。だからこうして……面倒な介護をしているわけだ」
久三は文句を垂れてから、嘉世子への想いを口にした。
一生を添い遂げると約束した者の言葉だ。電蔵は確と心に刻む。
「……そうか」
目を閉じて胸に手を当てた。電蔵にもそう思う人がいる。
久三の嘉世子への悪口も、電蔵が王様に言う悪口と同じだ。電蔵は久三に謝った。
「すまない。オレはまた、考えなしでお前さんを……」
「構わん。お前がそう思ったなら、素直に言えばいい。後はわしらがどうにかしてやる」
「……ありがとう、と言えばいいのか?」
「そうだな。それがいい。あまり謝るもんでもない」
久三は微笑んだ。電蔵も心が温かくなって、顔を綻ばせた。満面の笑みだ。
「ああ……」




