メロンみたいな大きさだった
今度は電蔵が呆れている。久三が仄かに頬を染めて、若かりし頃を思い出しているからだ。過去の栄光に縋ったところで、過去は戻ってこない。思い出というのは、多少なりとも美化されがち。
果たしてそれが正しい記憶なのかどうか……。
「その姉ちゃんは大層美しい娘だった」
「今はババアなんだな」
「電蔵は無粋なやつだなあ」
「仕方ないだろ。性分なんだから」
過去形で語る時点で、そう思ってしまうのも仕様がないことではある。実際、生きていれば顔中皺だらけかもしれないから。そうでなければ骨になっているはずだ。それでもって、どこかの墓に還る。人間は死して尚、形が残るものなのだ。死因によっては、何も残らないかもしれないが――人間は死ねば骨になる。皮も肉もなくなり、生きていた頃の姿が思い出せなくなる。だからこそ、カメラというものが発明されたのだろう。カメラで撮って写真を残す。肉声だけ残しても顔は思い浮かばないのだ。
死者を思い出すため、遺影がある。
いつかは色褪せてしまうから、残しておかなければならないものがある。
電蔵は複雑な表情をした。必ず消滅する自身の儚い存在を、妬ましく思っているのかもしれない。あるいは、感傷に浸っているのかもしれない。
「わしが五歳の時で、その姉ちゃんは十七歳の時じゃったか……。生きてるとは思うが、めっきり会わなくなった。今どこにいるか……」
「まさか。そいつも連れてこいとか言わないよな?」
「できるもんなら、やって欲しいがな。無茶は言わん。お前がやりたいなら、そうしてもらいたいが、注文のしすぎはダメだろうに」
「ああ……オレでも音を上げるぞ……。無茶がすぎる」
王様ならば、それも注文してきただろう。なんせ、休みなしのブラックな世界だから。電蔵だけにはブラックな世界なのだ。他の息子たちはほぼ休みのようなもの。
「姉ちゃんはな、わしがおっぱいを見せてくれと頼んだら……いいよと言ってくれた」
「まさか、王様と一緒なのか!? ショタが好きとかいうやつか?」
「は? ショ……とは、なんじゃ」
「話せば長くなる。続けてくれ」
「……そんなに長くなるか」
「ああ。王様の話をすることになるだろうからな」
電蔵はコホンと咳払いした。王様の話をこの家に持ち込みたくないのだ。
「凄くでかかった……それはもう、メロンみたいな大きさだったな」




