なんでもできるのか?
電蔵は久三と話し合った結果、友青を連れてくることになった。というのも、電蔵が余計なことを言い出したからだ。あの後調子に乗った電蔵は、
「なら、オレがそいつを連れてきてやる。それなら爺さんらも嬉しいだろう?」
「本当か?」
なんてことを言ってしまい、久三に期待の眼差しを向けられた。いつもの悪い癖が出て、安請け合いをしてしまった。電蔵の学習のなさが裏目に出た結果である。
電蔵は友青を誘拐……もとい任意同行させることになったのだ。当初の目的とほぼ変わらないが、どんどん目的から逸れていっているような気がしないでもない。王様の元ではなく、人様の元に連れていくことになったのだから。随分と地位が下がった。
なんでもできるようになりたい電蔵だが、安請け合いしてしまう性格だけはなんとしてでも直したいと考えていた。顔にそう書かれている。後悔しているのだと。
そんな電蔵の様子を微塵も感じない久三は、電蔵の肩を揉んでやったり、叩いてやったりして労った。
電蔵に肩凝りという概念はないのだが。そもそも日本人にしかない概念なのだ。実際、日本人以外の者は肩凝りをしているという自覚がないそうだ。彼らにとっての肩は首の付け根の左右ではなく、端のみ。凝ることがないところを肩と認識しているのだ。
寝る前もストレッチやヨガを懇切丁寧に教示され、電蔵は見様見真似でやっていく。毎日雑巾のように使われてきたのだ。軽い運動のように、涼しい顔をしている。
極め付けには、講師である久三すら上回る身体の柔らかさで驚かせた。
「……腹立つな、お前……」
「よく言われる……」
まるでビックリ人間のような姿。寝そべった状態で両足を顔まで持ってきた。これだけでも身体の硬い人はできない。顔の近くに寄せる前に諦める。それだけではない。腕の力だけで上体を起こし、歩き始めた。見る人によっては、気持ち悪いと思うほどであろう。
床に手をついて、てくてくと歩く。久三は口を開けっばなし。嘉世子も驚きの唸り声を漏らした。
「なんだい、お前……本当になんでもできるのか?」
「なんでもできてたら、オレは今頃神だと崇められてただろうな。やらないとできない。だから神じゃないんだよ、オレは。この世界にとっても、あの世界にとっても、オレというやつはちっぽけな者なんだ。くだらないことで悩んだり迷ったり……怒ったりする程度の、弱き者さ」
言っていることは格好いいと久三は呟いた。
「だが、それは……」
「ああ。この格好か。格好良さはポーズで決まるもんじゃないぞ。真にカッコイイやつはどんなことをしてもカッコイイんだ。アダルトな本を読んでも、負けっぱなしでも、うんこぶっかけられても……オナニーしててもカッコイイんだ。わかるか、爺さんよ」




