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王様のお遊戯(あそび)  作者: 社容尊悟
第一章 従者と少年

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小さな幸せ

 電蔵はここぞとばかりに愚痴を零した。その顔は、どこか嬉しそう。

「だが、大好きなんだな」

「だ……大好きだと……? ふざけてるのか、クソジジイ。この老いぼれが」

 電蔵は拳を握り締めて顔を引き攣らせた。怒りと焦りで口汚くなっている。

「老いぼれに老いぼれ言ったところで、たいした悪口にはならん」

「オレはこの世界で言うなら中年だが……」

 ぽつりと電蔵はひとりごちた。遠くを見るような目で横を見やる。

「ん? 何か言ったか?」

「いや。気にしないでくれ……。それより、お前さんは、どうして欲しいんだ?」

「……さっきの話か? 見かけたら声かけてやってくれ。老いぼれが心配してるって」

「了解した」

 電蔵は首を縦に振り、久三の願いを聞き入れた。

「他にして欲しいことは?」

「できれば、会って話がしたい。今どうしているのか、これからどうするのか……色々と訊きたいことがあるんでな」

「ほう。憎んだりはしていないのか」

「憎むなんてこたぁ、とうの昔に忘れちまった。若いもんだけだ。憎むのは」

 久三は破顔一笑。年月の重ねた者だけが言葉にできる。昔のうちはなんでもねたそねみ、人のものを盗むといった悪さをするが、歳を取ればそんなことはどうでもよくなると言いたいのだろう。歳を重ねれば、考え方が変わっていくからだ。

 余暇よかを楽しむ、それだけでいいと久三は言った。

「心の広い人間なんだな」

「そんなことねえ。自分たちのことしか考えとらんよ。小さな幸せがいいもんよ」

「小さな幸せか……いいな」

「お前もその小さな幸せを知ることになるだろな」

 味噌汁をすすった。大きな音を立てて飲むものだから、うるさいったらありゃしない。

 電蔵も飯を食べた。すっかり冷めてしまっていて、味の質は落ちていたが、それでも電蔵はパクパクと口に含んで食べきった。食べた後どうなるかはわからない。人間の消化器官のようなものがないので、どこから排出されるのか。

 電蔵は顔を伏せて、拳を握り締めた。今度はもっと温かい感情で。

「この瞬間が、小さな幸せだよ」

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