ニアミス?
「……わしがお前を連れてきたのには、理由があると話をしたよな」
「ああ。お前たちの最期を見届ければいいんだろう」
「それ以外に理由がある」
「……なんだ?」
「わしは昔、お前みたいなやつを家に引き入れたことがあってな……」
「唐突だな」
電蔵が無神経な突っ込みをすると、久三は目元に皺を深く刻んだ。
「まあ聞け」
鶏肉を箸の先端でつつき、突き刺した。摘むのは難しいようだ。行儀は悪い。食べながら話すのも、箸で食べ物を突き刺すのも、行儀の悪いことだ。しない方がいい。
「そいつはお前よりもっと幼い感じで……家庭の事情で捻くれたやつだった。今もちょっとばかり捻くれてるかもしれんが……まあ、黒髪黒目の日本人だ。お前さんみたいに髪を染めたりしとらん。お前の方が真面目で働き者だがな」
「オレも染めてないが」
「そうか。地毛にしては見たことない色だ……。そいつはついさっきまでわしの家にいたんじゃ。だが逃げた。もうわしらの面倒なんか見てられんってな。数年くらいは寄り添ってくれていたんだが……若いもんには、老人は老害でしかないのかねえ」
久三は茶をずずっと飲んだ。それから嘉世子に飯を食べさせた。
電蔵はやけにその話が気になって、思わず身を乗り出した。
「そいつはどんな容姿だった?」
「……こりゃおったまげた。こんな話に興味持つなんてなあ」
「お前さん、オレの何を知っている? オレが興味持っちゃいけないか?」
「いい。しっかし、お前もちょっと捻くれてるなあ」
「……捻くれているやつに心当たりがあるんだが……。この間見た、髪が乱れていて、ぶっきらぼうで捻くれていて、「負け犬」とかいう、変な文字が書かれたTシャツを着ていた……少年ではないだろうな……?」
電蔵は半眼になって汗をかいた。そう、先日会った友青という少年を脳裏に浮かべているのだ。負け犬と書かれたTシャツが想起される。思わずげんなりしてしまう。
次に出る答えが是であることを電蔵はすぐにわかった。久三が目を見張ったからだ。
「……まさか、友青と会ったのか?」
「おああああああああああああああ! そのまさかだああ」
電蔵は頭を抱えて天井を仰ぎ大声で叫んだ。空気を震わせ、久三たちを驚かせる。
すぐに元に戻って電蔵は真剣な顔つきになる。
「はっ。すまない、つい」




