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王様のお遊戯(あそび)  作者: 社容尊悟
第一章 従者と少年

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料理人・電蔵

 電蔵は口元を緩ませた。言われたことの意味をわかっている表情。別のフライパンで鶏のむね肉を焼き、別の菜箸で丁寧に油を絡ませる。十分に火を通らせ、醤油やみりん、酒、塩胡椒で味付けをする。一つだけ箸で掴んで、息を吹きかけた。味見をして、調味料の量を調節する。

 少し薄味の方がいいかと電蔵は口にした。

「電蔵。お前は頑張り屋か」

「頑張っているというのは違うな……やらなきゃいけないことだから、やってるだけだ」

 まるで当たり前とでも言いたげに、電蔵は久三に言葉を返した。

「……そんなのでは、疲れるだろう」

「心配しているのか? それはどうも。倒れたら、倒れた時だ。オレはそんなに軟弱ではないぞ。人間とは比べ物にならないくらい、強靭な肉体を持っている」

 電蔵はククッと笑って、鶏肉の調理を終えた。野菜を乗せた皿に、鶏肉を乗せる。トマトを切って乗せたかったが、そこまでするのに時間がかかりそうなのでやめた。味気ない盛り付けだが、これで完成だ。電蔵は顔を輝かせた。働くのが大好きなやつだ。

「さあ、できた。久爺さん、嘉世婆さんを呼んできてくれ」

「ああ。わかった」

 久三は首肯しゅこうして台所を出た。電蔵は皿を持って食卓に運ぶ。自分の作った料理が並ぶさまを見て、電蔵は顔色を一層明るませた。汗をかいていないのに、ひたいを腕で拭ってみせたり、腰に手を当ててみたりして、満足げに頷いた。

「よし」

 自身のスキルが高まっていっているのを感じている。なんでもできればいいと思っている顔だ。吸収しようとしていれば、なんでもうまくいく。できないと思わないことだ。

 二人が来るまで電蔵は立ったままで待っていた。先に席に着くのは、家主の特権であって、主夫が先に席に着くのはおかしいと考えた。なので、電蔵は自身の料理を眺めているだけ。

 茶碗によそった白米。焼いた鶏肉と炒めた野菜。そして漬物や味噌汁。日本の食卓に合ったものだ。電蔵はそんなものを食べたことがなかった。いや、食事も必要ないのだ。

 食べたらどうなるのだろう。味見はしたが、味見と料理を食すのとはまた別の話だ。電蔵は鼻をくすぐるかぐわしい香りに、目を閉じる。

「……オレが作った……料理か……」

 王様にも食べさせてやりたいと口にする。どこに行っても電蔵は王様思い。

 二人が来た。何をしているのかと電蔵をじっと見つめた。電蔵はハッと我に返る。

「あ、ああ。来たのか。どうして教えてくれなかったんだ」

「……自分の世界に入ってたからな」

「……うう」

 電蔵は少しだけ恥ずかしくなった。自慰行為を見られるのと同じだ。

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