やり続けるのが大事
答えられなかった。見た目は人間。だが中身はそうではない……。人間にはおよそ想像もつかないような不思議な力を持っていること。それを説明したところで、霊能力者だの超能力者だのと騒がれるか、嘘だと吐き捨てられるかのどちらかだ。いくら義理の家族になっても、信じられないことの一つや二つはあるだろう。
電蔵は魔種。それは人間ではない。言うなれば人型の種族。血の通わない種族、である。
電蔵は指を切ったりしないように、集中して包丁で野菜を切っていった。指を切っても血が出ないから。小気味よい、家庭的な音がする。
「……お前がやりたいなら、やってもいい。じゃが、疲れたら休んでも構わん。もうここはお前の家なんだから。好きに使っていい」
「……ありがとう」
久三の優しい言葉が、電蔵の心を打つ。心に染みる言葉をくれる。
野菜をトントンと切って、フライパンに油を入れる。点火して全体に行き渡るよう、フライパンを浮かせて左右に揺らす。じゅわーと音が鳴れば、火が通った状態ということだ。
「……わしらをダメ人間にする気か?」
「元々ダメなやつなんじゃないのかー?」
フライパンを熱した後、野菜を菜箸で掴んで入れた。菜箸で混ぜて炒めていく。その後ろ姿は今日なったばかりとは思えない、ベテランの主夫のよう。電蔵も主夫になりきっている。久三は働き者の電蔵を目の当たりにして、思うことがあるようだ。
「いい人間っていうのはなあ、悪い人間を引き寄せちまうんだ」
「そうか。オレはそうじゃないから、安心だな」
「……働き者のところには、働かない者が集まる。世の中はそういう風にできてんだ。いい奴にはいい奴ばっかりとは限らん。どちらも補うようになっとる。要するにわしが言いたいのは、お前が頑張りすぎると、わしらが動けなくなっちまうってことだ」
「ハァ……久爺さんよ、それは元々ダメなやつが陥るもんだ。落ちこぼれがそうなる。やる気なくすのだって、元々ダメなところがあるからなんだ。そうでないやつは頑張るんだよ。それで疲れる。小休止してまた始めるんだ。なんでも続けないと、やめてしまうだろう? 少しでも休めば、自分がダメになるってわかってるから、続けるんだ」
電蔵は野菜を炒め終えて、皿に移した。
「ダメなところがない人間なんかいない。だから続けるんだ。仕事だっておんなじだろ。少しでも休めば、欲が出る。長い間休めば、もっと欲が出る。仕事したくないって思うんだ。もっと休みたいって思うんだ。趣味もそうだ。休むのはよくない。毎日少しずつでもいいから、やり続けるのが大事なんだと、オレは思う」
電蔵は自身の考えを長々と語った。久三は無言になって、顎に手を当てた。
「お前は見た目の割に……大人だな」
「そうか? オレはまだこどもだが」




