いつかは消える、運命だから
「ありがとな」
久三に礼を言って、電蔵は服を脱ぎ出す。男同士なので全く気にしない。電蔵がそうするので、久三がどこかに行った。気にしなくともいいのにと電蔵はちらと一瞥した。
「……ふう」
電蔵は肌着の上にシャツを着て、ズボンを履いた。軍服のような服は王様にもらったものだが、ここでは王様の世話にはならない。久三たちに世話になるのだ。
脱いだ服を畳んで、電蔵は隅に置いた。王様の庇護下から離れるようなイメージ。
次の仕事をするために、電蔵は久三を探しにいった。
時差で眠くなるかと思ったが、全然そんなことはなかった。仕事を真面目にこなしていれば、眠気は訪れない。家事を頑張る電蔵を久三が見ていて、嘉世子は喜びの唸り声を出している。
さながらお手伝いさんのようだ。義理の孫というより、男のお手伝いさん。
久三は苦い顔をしていたが、住まわせてもらう以上は何かをしなければならないと思って、こうして家事全般を担当している。全ての仕事を覚えて、居候という低い立場にいないようにするという魂胆だ。電蔵がいなければいけない、と思わせるように刷り込む。
居場所を失わないために、電蔵は必死なのだ。王様に目をかけられていても、電蔵は不安だった。いつ居場所がなくなるか。だからこそ王様に従っていたのだ。
ここでも同じように、必要とされるために働き続ける。悲しき性の持ち主。
電蔵が風呂を沸かし、料理の下ごしらえをしている時、久三が話しかけた。
「電蔵。休め」
「いや……住まわせてもらってるんだ。これくらい当然だろ。それに、働かざる者食うべからずという諺もあるじゃないか。お前さんもそう思うだろ」
電蔵はぎこちない手つきで野菜を洗って、まな板にレタスとキャベツを乗せた。
「そんなに働かんでもいい。お前が倒れたら……わしらはお前に何かできるか?」
「オレは死なん。ありがたいことだが、そういう心配は要らない」
死ぬ時は消滅する時。王様以外の者には忘れ去られてしまう。もちろん、庄時にも、他の息子たちにも。どちらが先に消滅するかはわからないが、いつかは消える。
「死なないことはないだろうに。同じ人間だろう」
「……」




