感涙する電蔵
電蔵の言っていることは正しい。電蔵はお坊ちゃんではなく、王様の息子、つまり人間の考え方であれば王子と同じなのだ。お坊ちゃんというのは金持ちの息子ということだろう。微妙に差異がある。
「なるほどな。お前、変わってるなあ」
「よく言われる……」
「そうか。次はちょっと休め」
「何もしなくていいのか?」
電蔵が尋ねると久三が頷く。久三はちょっと待っていろと言って、電蔵をその場に待たせた。暫く待っていると、久三が戻ってきた。何かを手に持っている。衣服のようだ。電蔵に合うように選んだのだろうか。淡色のお洒落なシャツとジーパンだった。電蔵は自身の服装を見た。赤と黒の軍服みたいな服。動きにくいし、そんなものを着ていれば色々と不便だと思って衣服をくれるらしい。
「……ほれ」
電蔵はそれを受け取り、久三に訊いた。
「なんだ、これは。服か?」
「お前の服だ。編んでやった」
「……久爺さんが?」
「そうだ。嘉世子が編めるわけないじゃろ。何言っとるよ」
久三は馬鹿にしたように眉を寄せて、電蔵に言った。言い方はきついが、電蔵はもらった服を見つめて、涙を流した。ぷつっと切れたように、突然に。
「……!」
「おっ、お前、何泣いとる? 初めてもらったもんでもないだろうに……」
「いや……」
人間がこんなに温かいものなのかと呟き、電蔵は感動した。同時に、何か大事なことを忘れていると思い出した。心の奥が温かくなった。袖口で涙を拭い、電蔵は感慨深く呟く。電蔵は思ったことはすぐに口に出してしまうのだ。
「庄時にも教えてやりたいもんだ……」
「ショージ? 友人か?」
「……いや、兄弟ってやつだな」
「きょうだいがいるのか」
「ああ……オレを羨ましがっていたやつでな。ちょっとめんどくさいやつだ」
「お前の方が年上か?」
「……生まれたのはオレの方が後だ。だからあっちが兄貴になるのか」
「いちいち独り言の多いやつだなあ」
「独り言が多いと何か問題でも? 思ってることが口に出るんだ。仕方ないだろ」
電蔵は久三を睨む。久三はハァとため息をついた。
「……はいよ」




