愉快な小僧
「……そうか? わしは毎日掃除しているつもりじゃがな」
「……毎日掃除をしても、埃はたまるもんだ。仕方ない」
電蔵はフゥとため息をつく。気の緩んだところでポケットに手が伸びた。力を使いたいと思っているのだろうが、そうもいかない。電蔵が力を使えば、久三たちは電蔵の正体を探る。不可思議なことが起きれば、人間はそれが何かを追及したくなるのだ。久三たちのような老人でも、それは同じこと。そして電蔵は必ずぼろを出す。
電蔵はぐっと堪えて、掃除機をかけた。畳を傷つけないよう、丁寧に。
「電蔵。お前、ようやるなあ」
「世話になってる分くらいは働かないとな」
掃除機をかけながら電蔵は答えた。久三は椅子に座ってテレビを観て寛いでいる。しかし電蔵は怒らない。王様に鍛えられた働き者の精神は根絶することがないから。
要するに、電蔵はニートになりたくないのだ。
グイーンという変わった音を鳴らして、畳についた埃やごみを吸い取っていく。隅々(すみずみ)まで入念に掃除機をかける。電蔵はそれが楽しくて顔を綻ばせている。今まで力を使ってなんでもしてきたのだ。力を持たない人間がこんな発明品を使うとは、と感動している。楽しくて鼻歌まで歌い出した。
「……電蔵。そんなに楽しいか?」
「ああ。楽しいさ。こんなことするのは初めてだ」
電蔵は明るい声で久三の問いに答えた。
「こりゃたまげた……! もしや、お前ボンボンか?」
「ボンボン? ああ……あれか。ウイスキーボンボンという菓子のことだな? 違うぞ?」
「いや、普通に考えてそんなこと言わないだろうに。アホなのか」
「やかましいジジイだな。ボンボンってのはなんだ?」
「本音が出とる」
「オレが阿保なのは今に始まったことじゃない。いちいち言わんで宜しい」
電蔵は掃除機のボタンを押して、一旦掃除をやめる。鼻息荒く、手を腰に当てた。
「……お前、そんな愉快な小僧じゃったんか」
「愉快な小僧? そうか、そいつは光栄だな。久爺さんは毛ほどもつまらんが」
はん! と鼻で笑って、電蔵は蔑むような目で見下ろした。
「性格も愉快じゃ」
「そいつはいい。オレはそれで通してきてるからな」
電蔵はうんうんと頷く。貶されていると知っていて、電蔵は喜んでそれを受け入れているのだ。




