憎しみは何も生まない
王様は頭を抱えて、脅えたように震え出す。目の光が消え失せ、王様はビクビクしている。王の力を以てしても、変えることのできない決まりに恐怖、戦きを感じている。
「……王様……」
「……怖い。怖い……皆が消えるのが怖い……。わかっていても耐えられない……」
「王様。落ち着け」
庄時が声をかけても、王様は震えたまま「怖い」とぼそぼそ呟いている。
「消えて欲しくない……」
王様が涙を流す度に、庄時は傷ついたような顔をした。
「……優しいんだな。王様も……あいつも……」
「……怖い」
「俺はお前らみたいに優しくなんかない。電蔵を羨ましいと思ったし……憎んだりもしてた……。今もちょっとだけ、あいつが羨ましいよ。ずるいと思う。こんなに母親に愛されてさ。俺だってもっと愛されたいと思ってる……。もっと頼って欲しいのに」
庄時の口から思いがこぼれ落ちる。
「……庄時……」
王様がハッと目を見開いて、庄時を見た。
「でもあいつが特別なのは……最初からわかってた。なんか、あいつは俺たちとは雰囲気が違うしな。よくわかんねえけど、なんか違うんだ。あいつは」
悔しげな微笑みを浮かべて、庄時は言う。
「……すまない。庄時……わしが不甲斐ないから……」
「……王様が悪いんじゃない。能無しの俺が悪いんだよ。こんな卑しい気持ち持ったやつなんかが、寵愛受けられるはずなかったんだ。電蔵は俺たちのことを全く憎んだりしていなかったのにな……。俺たちはあいつを憎んでいたけど……」
庄時は自らの過ちを認め、自身の醜さを吐露し、懺悔するように吐き出した。
「……お主たちを使ってやろう……」
王様は庄時の思いを受け止めて、そう宣言した。
「ありがとう、王様」
「……わしはお主たちに礼を言われるようなことは……何もしとらんよ」
王様は涙ぐんで庄時に言うのだった。
電蔵のいる日本。そして久三と嘉世子のいる家。電蔵は皿洗いの後、掃除をし始めた。
姑のように指で埃を取ってふっと息を吹きかける。電蔵は少しだけむせた。
「……埃がたくさんあるな」




